Neetel Inside 文芸新都
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小説を書きたかった猿
2.おすののぞみ

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 2 おすののぞみ


「おーい、おっきろー」
 十一時過ぎに春美に叩き起こされた。彼女は隣の家に住んでいるおせっかいな女で、時折僕の元にやってきては元気づけようとしてくれたり、外へ引っ張り出そうとしたりしてくれる。
「キスしてくれたら起きるよ」
「立場逆ー、でもいいよ」
「え、本気かよ」
「ほっぺにちゅっ、ならね。目つぶって」
「ちょ、ちょ、待って、え」
 頬に触れたものはなんだか細くて柔らかくなくて、キスってこんなものなのか、と少し落胆した。
 恐る恐る目を開けると、そこには僕の頬を指でつつく春美の姿があった。
「信じちゃったの? ほんといい歳して馬鹿なんだからー」
「なんだよそれ」
「ほんと馬鹿だよなお前は。時間ならたっぷりあったっていうのに資格の一つも取らず、職歴も重ねず、時折思い出したようにアルバイト募集の店へ電話をかけるが、いつも面接をブッチするじゃねえか。もう親もいい歳になってんだぞ。病気になったらおしまいなんだ。お前がいないところで両親がお前のことなんて言ってるか知ってるか? 『あの子はもう諦めるしかないわね』『あれはほっといて俺たち二人で人生楽しもう』ああ、知ってたっけ。珍しくお前が朝早く目が覚めた時、部屋の壁に耳を当てて聞いた両親の会話だもんなあ、あはは、死んじゃう? そろそろ死んじゃう? ねえ、ねえ、ねえねえねえねえねえねえねえねえ」

 気分転換という名の現実逃避のために書き出した、エロゲーの典型のような話だったはずなのに、いつの間にか読みたくない言葉、書きたくない言葉を連ねてしまっている。
 幼なじみの女がいたとしてももう二十八だ。とっくに結婚して二、三人子供がいてもおかしくない。僕はそんな女をうまく想像することが出来ないでいる童貞だった。

       

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