Neetel Inside 文芸新都
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小説を書きたかった猿
9.連載しようぜ!

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 9 連載しようぜ!


 小説を書きたいという思いはあるのにうまく書き始められない、書いてはみるが完成させることが出来ない、という、僕と似たような悩みを抱えている作家志望者は多い。そんな人たちと二人、ネット上で繋がっていたことがあった。僕は断片を、一人は長編小説の第一話を、もう一人は大長編小説の構想を披露し合い、感想を付け合ったりしていた。誉めるところは誉めて、期待出来ると思うところは期待していると書いた。お互いのセンスを認め合った。

 本当のところをいうと、どの文章もどうでもよかった。
 二人とも大嫌いだった。

 どれもこれもくだらなかった。どこかで読んだような話か、さっぱり意味不明なものが多かった。作品の奏でる音より作者の怒鳴り散らす声の方がうるさくて、読むたびに後悔した。その思いは自作を読む時にも湧いてきた。
 第一話男は、有名な賞を受賞した作品には必ずケチをつけた。作品を最後まで読むことはせずに。
 構想男は、自分は全く新しい小説を書く、誰も書けないような、いっそ誰にも読まれないようなものでもいい、と吹いていた。
 僕は彼らのように攻撃的な性格ではなく、読まないものについては語らず、野心も少なすぎるくらいだったので、表向きは醜くならずに済んでいた。
 本心を隠しつつ生きることの方が、ずっとくだらない生き方だと思うこともあったのだが。

 このままじゃ駄目だ、とはみんな気がついていた。

 現実と同じように、ネット上でも他人との交流をあまり深めようとしない僕と違い、第一話男は積極的に創作仲間を作っていた。そんな彼があるコミュニティを立ち上げた。

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<連載しようぜ!」>

 ここは、小説を連載したい人のためのコミュニティです。承認制のため、参加者には厳密な審査をさせていただきます。外部の人間には閲覧は許可しません。

「長編小説を書き上げたいけどモチベーションが上がらない」
「誰かに読んでもらいたいが読者がいない」
「WEB上で発表すると未発表扱いにならない賞もあるので困っている」
「緊張感を持って書き続けたい」
 といった悩みをお持ちの方に、最適の場となるように心がけていく予定です。具体的なルールとしましては、

・何編でも連載可能。
・連載途中での投げ出し、削除の自由。
・モチベーション低下、中途半端な満足感を得てしまうことの危険等を避けるため、作品に対する批評は矛盾指摘や設定アドバイスなど、最低限のものに限る。

 などとなっております。これから細かいルールが随時追加される可能性もありますが、基本的には「あまりおおやけにはならず、それでいて緊張感を持続して小説を連載出来る場所」を目指しております。あまり人数が増えると無用な混乱を招きますので、最初は五人程度で参加者を締め切らせてもらいますのであしからず。
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 僕にも「第一話」を送ってよこせ、と彼は言ってきた。審査基準(彼の心持ち次第だが)に達していれば、メンバーに入れてやる、という話だった。構想男は誘っていないとも書いていた。
 一念発起して書こうとしたが、彼をあまり信用していないからなあ、という理由をつけてぐずぐずしているうちに、あっという間に五人が集まってしまい、僕抜きでコミュニティは動き始めた。
 会員制なので外部のものには読むことが出来なかったが、発足当初から揉め事が絶えないというのは、いろいろなところから伝わってきた。
「規約を守らないものがいる」「第一話で投げてばかりで、連載するつもりのない奴がいる」「恋愛小説を書く女性作家をナンパしてばかりのクソ野郎がいる」「せっかく順調に続いていた連載作品を、他所に全文コピペされた」などなど。

 参加者は一人が抜け、一人は強制退会させられたらしかった。そんな状態でも勤勉に書き続けていた一人が、ある地方文学賞で最終候補に残るというめでたい結果が出た時に、何故か第一話男はコミュニティを閉鎖してしまった。
 その後の彼の行方は知らない。ネット上だけの繋がりであったため、関係が切れてしまえばそれで終わりだった。探し出してまで会いたい人でもなかった。

 構想男の方はというと、小説はすっぱりと諦めて漫画を描き始めた。
「遠慮なく批評してくれ」と彼が言うので、ジャンルの違う気楽さから、「デッサンの練習をしたら?」「どういう動きをしているのかさっぱりわからない」「いらない台詞が多すぎるんじゃない?」「とにかく可愛い女の子を描こうよ」と、思ったことを素直にアドバイスしたところ、何故か彼のサイトに書き込み出来なくなってしまい、こちらもまた繋がりが切れてしまった。

 二人との別れを寂しいとも悲しいとも感じないことが、少し悲しかった。

       

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