Neetel Inside ニートノベル
表紙

花鳥風月
砂漠

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「なあ・・・?」
「なんだ?」
「これからどうするよ?」
「そうだな、私は・・・おまえはどうする?」
「俺は帝国に行こうと思う。」
「なんでまた?」
「あそこなら研究場所に苦労しなさそうだからな。」
「なるほど。じゃあここでお別れかな?」
「そうなるな。まあ今生の別れってわけでもあるまい。」
「そうだな。私たちには時間はいくらでもある。」
「ああ。」
「じゃあ、またな。」
「ああ・・・またな。」



50年後



見渡す限り砂、砂、砂。彼はただ一人立っていた。
「熱い・・・」彼は一人口ずさんだが、その言葉に反応する者は誰もいない。
砂避けのためであろうコートにくるまっているため顔はよく見えない。
彼はコートの中から機械を取り出した。
「おかしいな。ポイントはここであってるはずなのに、これだから機械ってのは信用できないんだよ」彼はぶつぶつと文句を言っている。
声からすると少年のようだ。平べったい機械のコンソールには現在地と目標の座標、それぞれ赤と黒の光点が点滅している。2つの光点は重なっているようだ。
「呼んどいて迎えも寄こさないなんて何考えてるのかね?」
一人途方に暮れていると、突然大地が震えた。
「何か来る!」
音が収まったかと思うと、彼の周りで爆炎があがる。その数7つ。
「これは・・・機械兵!?」
「帝国の領土に近づきすぎたか?」
「コシュー、コシュー」
全長3Mはあろうかという機械兵達は不気味な駆動音を鳴らしている。
「どうもこいつら違和感があるな。前見た時とは大分印象が違うような」
「ガガガガガガガ!!!」機械兵の駆動音が大きくなる。
「問答無用ですか・・・まあいいや。闘ればわかる。」
少年の正面にいる1体がすさまじい速度で突進してきた。
機械兵が放つ超速の拳を入り身になってかわす。相手の腕をつかみその勢いを殺さないままに機械兵の巨体を投げ飛ばす。機械兵は縦に回転しながら宙を舞い、一瞬の間をおいて頭から大地に激突した。
その巨体はくの字に折れ曲がり、アルファベットのCのようになっている。
首は悲鳴を上げているが構わず機械兵は立ち上がる。
「ガガ・・・ギガッ・・ガガグ」
一定であった駆動音に異音が混じる。
「あれー?仕留めたと思ったんだけどな。」
「砂がクッションになったか、これじゃあ浮き技はあまり意味ないな。まったくこのレーダーといいうまくいかない時は何をやってもうまくいかないもんだ。」少年はぶつぶつと文句を言っている。機械兵はそんな少年のことはお構いなしに攻撃を再開した。首はひどい状態だがその速度は衰えていない。少年と機械兵が交錯した。
機械兵の首が吹き飛び膝から崩れ落ちる。駆動音が聞こえなくなり、機械兵は今度こそ
その機能を停止した。
「これじゃあ打撃でぶっ壊すしかないか」
少年はめんどくさいとため息をつきながら右手で手招きをする。
「来いよ・・・遊んでやる」








     

「こいつ本当に人間か?」

モニターに写っている少年を見ながら男は言った。
男はボサボサの白髪でタバコをくわえている。
手元にはタバコで満杯になった灰皿が置かれている。
タバコの灰が重力に耐えられなくなり、落下した。
灰は男の手の甲に触れる直前、差し出された空の灰皿に収まった。

「ちょっと」

男の隣にはいつの間にか長髪の少女が立っていた。
その肌は灼熱の砂漠において場違いな程に白く、日に焼けた男とは対照的だ。
声色からして、かなり怒っているようだ。

「おお、来てたのか。ミン」男はヘラヘラとした笑みを浮かべながら言った。
「おお…じゃないわよ、マーク。ここは禁煙だって何度言えばわかるのよ?」

ミンの眉間にはしわが寄り、青筋まで立てているというおまけ付きだ。

「大体……この部屋は金属探知機が設置してあるから、登録したもの以外は持ち込めないはずなのに。」
「一体どうやって持ち込んでるの?この灰皿」
「それな。この間発掘された特殊素材で作った俺のオーダーメイドだ。
だから探知されない。お前にも何か作ってやろうか?」
「……」ミンは呆れて何も言えなかった。
「なんだ、いらないのか?そんな顔をしているとせっかくのかわいい顔が台無しだぞ」
「バーカ。そんなことばっか言ってるとレイカさんとミリィに言いつけるわよ」
「勘弁してくれよ」マークは苦笑いを浮かべた。
「それよりこの子が例の?」ミンはマークを無視してモニターを見た。
「ああ」
「この子……人間?」ミンは信じられないという顔でモニターを見ている。
「俺もさっき同じことを考えていたよ。色々と調べてみたが、
彼の身体は正真正銘の生身だ。君とは違う。」
「そう」レイは少し悲しそうな顔をして顔を伏せたが、すぐにモニターに視線を戻した。
「何体やられた?」
「5体だ。これでも自信作なんだがなあ。帝国のオリジナルとやってもいい勝負するよ。
お…6対目がやられた」
モニターの中では少年のけりに寄って機械兵の首が吹き飛んでいた。
「この身体のどこにこんな力があるのかな?」
「どうやら力だけじゃなさそうだが、気ってやつかな?」
「気ねえ、とんでもない人間ってのはいるもんね」
「まあ実際この目で見てるんだから信じるしかないな」
「マーク、もうアレって実装されてるの?」
「ああ、アルに装備させている。だがいいのか?
アレを使ったらこいつ死んじまうかもしれんぞ」
「いいのよ。その位じゃないと呼んだ意味がないわ」
ミンの目は氷のように冷たかった。
「これは手厳しいな」マークは手元のキーボードを操作した。
そんなことを言っている間にモニターの中では7体目の機械兵が機能を停止していた。











少年の周りには7体の機械兵の残骸が転がっている。
「ふう…」少年はため息をついた。
さすがに飽きてきたな。こいつら動きが単調だし。
三体目までは楽しんでいたが、5,6体と倒していく内にもう完璧に飽きていた。
ただ気になることはあった。倒してきた7体の機械兵は急所を狙ってこなかった。
機械兵の攻撃を食らえば例え急所でなくとも致命傷になるのは間違いない。
だがあえて急所を外しているというのはおかしな話だ。
「試されてる?」
少年が考えていたとき、最後の一体が激しく稼動し始めた。
最後の機械兵が煙を出し始めたかと思うと突然爆発した。
「なんだ?」少年は爆発によって生じた砂埃に目を細めた。
「適わないと思って自爆?…なわけないよな。うわっと」
飛んでくる残骸を避けながら少年は煙の中心地へと視線を移す。
徐々に煙が晴れてきて、機械兵の姿が確認できた。

「人間?」

機械兵は一回り小型化していた。背中に刀を背負っている。
しなやかな無駄のない動きで刀を抜き中段に構えた。
隙がない。どうやら今までの木偶とは違うらしい。機械兵は腰を落とし、消えた・・・様に見えた。
機械兵の疾風の如き踏み込みによって、10m程あったあった少年との差は一瞬でなくなった。
確実に急所を貫く必殺の突き。心臓を狙ったその一撃を少年は辛うじてかわす。間髪いれずに
横なぎの一閃を体を思い切り反らせて避ける。鼻先を刀がかすめ砂避けのためのフードが吹き飛ぶ。
倒れそうになる勢いそのままにバク転を繰り返して距離をとる。機械兵は追い討ちはせず、ゆっくりと中段に構えなおす。
少年の頬にピリピリとした痛みが走り、血が流れ落ちた。

「やるねえ」少年は笑った。
フードがなくなったことにより、少年の顔があらわになる。
端正な顔立ちをしているが、まだ大人になりきれていない幼さも残している。
さらさらとした黒髪が風になびく。

「あら…美少年」ミンがモニターに向かって微笑む。
「そんなこと言ってるとアルに言いつけるわよ」さっきのお返しとばかりにマークがおどけて言う。
「うっさいバーカキモイシネ」
「なあ?」
「何よ?」
「…泣いていいか?」
「どうぞご自由に」
マークはしくしくと泣き始めた。
めんどくせえ・・・ミンはマークを無視しモニターに視線を戻した。

「このままじゃ長引きそうだね」
少年は両手の手袋を外し腰の袋にしまう。機械兵はその行動が終わるのを律儀に待っていた。
「さあ、行こうか」

少年が右腕で髪をかき上げる。


少年の髪は白くなり


その瞳は金色に輝いていた。














     

「こいつは・・・」

「金か」

「私たちと同じ・・・」

「・・・ああ」

モニターの前の二人は押し黙り、体を硬直させる。部屋が沈黙を支配した。

タバコの煙が動かない二人に反発するようにうねりながら上へと昇っていく。

「っつ・・・」

思わずタバコを落としていた。

いつの間にかタバコは短くなり、指に熱を与えていた。

「こりゃあ大物が釣れたな」

マークは新しいタバコに火を点けながら目を細めてる。

「そうね」

ミンも目を細める。



再び沈黙



「・・・・あ」

「どうしたの?」

「さっきのタバコだよ。もっと吸っておけばよかった」

「・・・ばか」




金色の瞳を持った少年は機会兵と対峙していた。
少年が発する殺気に機械兵は動じない

機械には感情という概念が存在しない。ミスをしないために、人とは違う存在であるために、
余計なものを排除した結果が機会という存在である。もし機械兵に感情というものが存在したのならば、
殺気にあてられて逃げ出したのかもしれない。

しかし退かない

機械兵に与えられたプログラムは目の前の少年を破壊すること

ただそれのみ

「へえ、これだけ殺気をあてても反応しないか」

「中に人が入ってるかと思ったけど、どうやら本気でいけそうだ」

機械兵は相手の戦力を分析する。対峙するデータをマークの元へと送り続けている。
手袋を取る前の戦力値は己の戦力値でも十分に対応できる数値だっだ。
しかし、手袋を外した後の戦力値は己を遥かに越えている。

一撃で決めなければやられる。

機械兵は刀を冗談に構え迎撃体制に移行する。

「行くぞ!!!」

少年と機械兵の距離が瞬時になくなる。
先ほど機械兵が少年に取った行動と逆の形になる。

機械兵は動じない。

少年の動きを計算し上段に構えた刀を一気に振り下ろす。

今までで最速の打ち込み

避けられるはずがない。

刀が額に触れる瞬間、少年は斜めに踏み込み体を90度回転させる。
少年の眼前を通過する刀。少年の行動は避けるだけでは終わらない。

左手は機械兵の拳へ

右手は機械兵の肘へ

少年が最初の機械兵に使ったのと同じ形だが、相手の動きに合わせて投げ捨てる
という理にかなったものではない。

左手は機械兵の拳を握りつぶし、右手は機械兵の肘をテコの原理でもって叩き折る。

機械兵の肘から下は嫌な音を立て弾け飛び、彼方へと飛んでいく。

少年は左手に掴んだ刀を上段に構え直し、斜めにたたっ斬る。

機械兵の体は型から腰にかけて寸断され、上半身が斜めに滑りながら砂の上に落下した。

「これで終わりっと」

右手に握った刀を型に担ぎ、左手は手刀の形で顔の前に出しながら、

「南無」

と呟いた。



見渡す限りの砂の中、立っているのは少年のみ。一面雲ひとつない晴天が広がっている。
否・・・数キロ先には砂嵐が迫っていて少年のいる地域のみが晴れている。

「あれ?さっきまで嵐なんか起きてたっけ?」

少年が不思議に思っていると足元から豪快な笑い声がこだました。



「ガーハッハッハ!!!」



「あんた、大したもんだよ!制御モードとはいえ俺をぶった切るたあな!!
今度はぜひ本気でやってみたいもんだぜ!!!」

少年は足元からする大声へと目を向けた。そこには豪快に口を開けて笑う機械兵がいた。

「ガハハハ!俺をここまで破壊できる人間が譲ちゃん以外に存在したとはなあ~。
あ?俺の名前か!?俺の名はアーノルドってんだ!正式な型番もあるんだが、堅苦しいから忘れた!!
アルでもアッ君でも好きに呼んでくれや!!!っておい!男にアッ君なんて呼ばれる趣味は
ねえっての!!!ダーッハッハ!!!」

少年は足元でバカ笑いする頭を眺めながら思った。・・・うっとうしいな。「斬ろう」
肩に掲げた刀を振り下ろす

「待てまてマテって!!!」

アルの眼前で刀が止まる

「話を聞かねえ野郎ダナまったく!周りをよく見ロ。そんなことやってる暇はナイゾ!」

言われた通り周りを見てみると嵐が先ほどより明らかに近づいている。

「このままじゃ巻き込まれるぞ。手伝ってくれたらお前も助けてやる」

少年はしばし思考した。このまま嵐に巻き込まれるのはごめんだ。
フードは破れてしまったし、砂が口に入り込むのにはもう飽き飽きだ。

「どうすればいい?」

「よしよし、ニンゲン素直が一番ダ。とりあえず俺を胴体から外してくれ!
こいつはもう使・・・」

言い終わる前に少年は首と胴体への付け根を一閃。首が上空へ吹き飛ぶ。

「バカヤロー!!!もっと丁重に扱え!あと絶対に素手では掴むなよ!
握りつぶされたくねえからなあ~」アルは落ちながら叫んでいる。

「うるさい奴だ」

少年は口を使いながら器用に左手に手袋をはめ、アルをキャッチした。

「よ~し!よくやったブラザー!それじゃあ次の・・・スステッ・・プ・・・ダ・・・」

「おい、どうした?」

お喋りだったアルはまるで別人?の様に話さなくなった

「なんなんだよ」

少年はしゃべらなくなったアルをその場に放置していくことにした。
使えないないものはいらない。こいつ無駄に重いし。アルが口を開いたのなら
「このハクジョウ~もんが~」と叫んだことだろう。

「どうしたもんかね?」

次へのステップへと進む鍵を失ってしまった少年はむきだしの刀を鞘にしまうことにした。
首のなくなったアルの胴体へと向かう。刀を鞘に収めながら考える。

良い刀だ。アルの左手を握りつぶした時、刀の柄ごと握りつぶすつもりだった。
というか今まで素手で掴んで壊れなくなかった武器など存在しなかった。

少年は武器が嫌いだ。手袋をしていれば問題なく扱える。しかし、手袋を外して扱おうとすれば
例外なくガラクタとかしていた。本気で扱えないものに少年が本気で鍛錬をするはずもなく。
「きちんと鍛錬しないと後で後悔する」師匠にも散々言われたものだ。

「これから本格的にやってみるかな」

彼のしている手袋は少年の異常ともいえる怪力を抑えるものだ。彼自信がその怪力に気づいたのは
今から14年前だ。
彼は名もない小さな集落の出身である。機械など存在しない自給自足の生活。何もない場所ではあったが、
仲のいい両親と二人がくれる愛情があれば彼は幸せだった。

彼の周りはいつもガラクタだらけだった。敗れた本、首の千切れた人形。
両親は我が子の可愛らしい寝顔を眺めながら不思議に思っていた。なぜこの子は自分の周りのものを
壊してしまうのだろう?二人が農作業を終え帰宅するといつも満面の笑みで迎えてくれる愛しい我が子。
病気をわずらっているわけではないし、態度におかしなところはない。
そして一つの結論に辿り着いた。ここには娯楽が何もない。
世界中の誰よりもこの子に愛情を注いでいる自負はある。しかし、自給自足のこの村では
朝から晩まで野を耕さねば生きていくことはできない。
自分たちが外に出ている間この子は一人だ。この子には遊び相手が必要なのかもしれない。

父親がそう思い立ってから数日後、両親が帰って来ると、少年はいつもと変わらぬ満面の笑みで迎えた。
父親は体の後ろに何かを隠していた。少年は聞いた。

「おと~さん。なにをかくしているの?」

父親は笑顔で答えた。

「いつも可愛い~にプレゼントがあるんだ」

「やったあ!なになに!?」

「新しい家族だよ」

父親は可愛いらしい子犬を抱えていた。

「うわ~!うわ~!かわいいね!」

「抱いてもいい?」

「ああ」

その時の少年の記憶は曖昧だ。犬を抱こうとして、それから、赤い

思い出そうとするとめまいがする。映像がはっきりとしない。まるで靄がかかっている様で
どうしてもはっきりと思い出せない。

「くそ・・・つまんないこと思い出したな」

砂嵐は目前まで迫っていた。この砂が全部砂糖なら喜んで口を開けるのに・・・
いや、糖尿病になるから辞めておこう。などとくだらないことを考えていた。

「ひどいね」

真後ろで声がして少年は戦慄した。考え事をしていたとはいえ、自分はつい先ほどまで命のやり取りをしていたのだ。
何も感じなかった。油断していいはずがなかった。

「死を覚悟した時ほど冷静に」

彼が師匠から耳がタコになるほど聞かされた言葉だ。背後の相手に緊張を悟られてはいけない。
できるだけ冷静に、ゆっくりと振り返る。

そこには一人の少女が立っていた。








     

その美しい銀髪に目を奪われた。


彼女は自分と同じ金色の目をしていた。

そして何よりその悲しみに満ちた顔に見とれてしまった。

少女はアルを抱えながら嘆いた。

「痛かったよね」

「でも、あの場合は仕方がなかったのかな」

「けしかけたのは私みたいなものだし」

「ねえ!君!名前は何て言うの?」

少年はすぐに反応できなかった。

「おーい」

「どうしたの?ぼーっとして」

少女の顔はどんどん近づいて、とうとう少年の顔に息がかかる距離にまで近づいた。

「うーん」

「戦っているときはあんなに凛々しかったのになあ」

「おっ・・・おい」

「あ!やっとしゃべった!私はミンよろしくね!」

少年が声を出すと少女の顔にぱっと笑顔が弾けた。そのコロコロと表情を変える姿は悲しげな最初の印象とはかなり違うものだった。
どうやら彼女は快活な性格らしい。

「お、俺は」

少年が名乗ろうとしたところで少女が少年の手を握った。
「こんなことしてる暇なかったんだ!行こう!」

ミンは少年の手を引いて歩き出した。

「マーク入り口出して!」

ミンは耳をおさえながら叫んでいる。耳に付けた機械でどこかと通信しているようだ。

「おお。やっと審査は終了か?で・・・お姫様の採点は何点だ?」

「そうねルックスは満点!でも表情がだらしないから総合で80点かな?戦っている時の表情だったら90点は固いんだけどね・・・って何言わせるのよバカ!さっさと入り口出しなさい!」


ミンは顔を真っ赤にしながら怒鳴っている。少年はそれを遠い世界の出来事の様に感じながら眺めていた。

「わかったからそう怒鳴るなって」

無線特有のノイズの混じった声が聞こえたかと思うと、目の前の砂が盛り上がり、あっという間に砂山が出来上がる。
山から砂が流れ落ちると、真っ暗な闇が口を開けた。どうやらこれが入り口らしい。

少し待つと床が暗闇の下方から移動してきた。これに乗れということだろうか?こんなものは初めて見た。

少女に手を引かれるままに床の上に進む。

二人が床の上に進むのと同時に、床が下方に移動する。

「うわ!?」

初めてに体験に思わず情けない声をあげてしまった。

「大丈夫だよ」

ミンは少年の手を握りながら優しく微笑んだ。

不思議な浮遊感を感じながら少年は混乱していた。もう何が何やら思考が追いつかない。
少年には少女が自分が手袋をつけていたとはいえ重いと感じたアルを軽々と抱えていることや、
手袋をはめていない手を握られていることに気づく余裕はなかった。

動く床が下方に移動を始めると、砂山は元の高さに戻り、そこに砂山があった痕跡はきれいさっぱりなくなった。

間もなく砂嵐が到来し、そこには機会兵の残骸だけが残された。




     

「何か質問はある?」

後で聞いたことだがこの上下に移動する不思議な床は「昇降機」と言うらしい。
周りを闇が覆う中、昇降機の下降中にミンが口を開いた。

「そうだな?アルだっけ?こいつはなんなんだ?ペラペラしゃべってまるで人間だ」

「アルはね・・・人間だよ」

「バカな!?どう見たって機械兵だ!」

「昔体の大部分を失ってね、マークが機械兵の体に脳を移植したの」

少年は少しの間唖然とし、言葉を繋いだ。

「マークってのは天才か大馬鹿野朗のどっちかだな」

「そうだね」

ミンは弱々しく笑った後黙り込んでしまった。



少年は重苦しい沈黙に耐えかねて口を開いた。

「ここはなんだ?」

少女はゆっくりと口を開いた。

「ここはね・・・私たちの基地の一つ」

「帝国の領土に近いから地上に基地を作ってもすぐに見つかっちゃうんだ」

なるほど、ここは砂嵐が頻繁に発生しているしいいカモフラージュになる。

話をしていると暗闇が徐々に明るくなり始めた。下の方にトンネルの出口を知らせる光がぽっかりと口を開けている。
やがて昇降機が暗闇を抜けた。

光の先の景色は壮観だった。闇を抜けた途端に広がる広大な空間。一体どれだけ広いのか想像もつかない。
少年は手すりに手をついて身を乗り出した。

「街だ!」

眼下には地上にあるものと変わらない街が広がっている。

「危ないよ!」

ミンが慌てて手を引く。

その時少年はようやく自分が手袋をしていない手を握られていることに気づいた。
迂闊だった。少年は瞬時にミンの手を握り潰すイメージを連想してしまい、手を振りほどこうとする。

「離せ!」

思い出したくない記憶が蘇る。少年は、昔、両親がくれた子犬を・・・

「ちょっと!?何やってんのよバカ!きゃっ」

二人は体制を崩して落下する。体を打つ突風。眼下には地上が迫る。

「俺は・・・ぼくは・・・おと~さんがくれた・・・子犬を」

少年の目は虚ろになり自身の体を抱きしめている。

「どうしたのよ!しっかりして!!」

ミンが叫ぶが少年は反応しない。目を瞑り「ごめんなさい。ごめんなさい」と独り言を繰り返すのみだ。

ミンの脳裏にマークの言葉が浮かぶ。アルに任せようと自分で言ったのにも関わらず、
我慢できずに少年を直接向かえに行こうとした時だ。

「ミン」

開いた扉の前でミンは振り返る。

「何よ?」

「あいつの手には直接触れるな」

「何それ?」

「いいな?」

「・・・わかったわよ」

扉が閉まりミンの姿は見えなくなる。モニターの中では少年がアルの腕を握り潰していた。

ミンは落下しながら少年に優しく語りかける。

「ごめんね。マークに手袋をしていない君には触っちゃダメって言われてたのに。最初に手を握った時に反応がなかったから
いつものくだらない冗談だと思ってた。ごめんね」

ミンは少年を抱きしめた。こんなところでこの少年を死なせる訳にはいかない。街のみんなには見られたくなかったけど、こうなっては
仕方がない。あれを使うしかない。ミンの背中が蠢く。




少年は温もりを感じていた。この感覚は・・・昔両親に抱きしめられた時と・・・師匠に・・・少年はゆっくりと目を開いて
状況を確認した。ミンに抱きしめられている。そして全身を打つ突風。どうやら落下しているらしい。

「おい!」

ミンは少年が反応したことにおどろいた。

「え!?」

少年はミンを引き剥がしながら叫んだ。

「どうなってる!?どうして落ちてるんだ!?」

「覚えてないの?君が手を振りほどこうとして!」

思い出した。この状況は自分が自分が招いたことだ。ならば責任は自分が取らねばならない!
地上までの距離、落下速度、激突までの時間、建物の構成・・・いける!

少年は左腕でミンを抱き寄せ、右手の刀を構える。

「ちょ、ちょっと!?」

「大人しくしてろ!」

ミンが少年の胸の中で喚くが、少年は気にしない。背中に回した腕に妙な感触があるが気にしている暇はない。

地上は目前まで迫り、二人は巨大な塔の近くを落下している。

「ここだあ!!!!」

少年は剣の鞘を塔に突き刺し二人を強烈な衝撃が襲う。

「ぐう!!」
「くっ!!」

少年が突き刺した鞘はすぐには落下運動を止められなかったが数メートル壁を削って動きを止めた。

「たすかっ・・・た?」

「多分な」

二人は安堵したが、地上まではまだ数十メートルある。まあこの位の高さならなんとか

「どうやって降りるの?」

ミンが上目遣いで尋ねる。心なしか顔が赤い。

「ああ、このぐらいの高さならなんとかなる。大丈夫か?」

「うん、大丈夫だと思う」

胸の中でモゾモゾと動くのはなんだか心地よい。


ガカカ

鞘がずれて壁から抜け落ちる。どうやら刺さり方が浅かったらしい。今日は厄日だ。

再び落下する二人。

「おおおおお!!!」
「きゃあああ!!!」

少年は刀を手放しミンが怪我をしないように両手で持ち替える。

「だあああああ」

そして着地

地面の煉瓦に両足がめり込む。

「「はあ・・・はあ・・・」」

両足が痺れているがミンに悟られないように声を出す。

「大丈夫か?」

「うん、大丈夫だと思う」

ミンは数秒前と同じことを繰り返していることがおかしくなり、笑い出す。

「ぷっ、あははははは」

少年もつられて笑う。

そうしている頃には背中に回した手の違和感も消えていて、笑いあう二人の周りには人が集まっていた。














「このポイントです」

「ふむ」




暗闇の中に巨大な映像が映し出されている。気配は二つ。一つは椅子に座り、もう一つはスクリーンのまで映像について説明している。
言葉遣いから説明している者は座している者の部下のようだ。

「時間にして15分程ですがここのポイントだけ砂嵐が止んでいます。嵐の切れ目があるのはそう珍しいことではありませんが、
問題はその規模が徐々に小さくなっていることにあります。」

「まるで意図的に作り出されたようだと?」

「はい」

「ここが奴らの巣ということか」

「恐らく」

「もっと映像を拡大できないのか?」

「申し訳ありません。この衛星システムを発見した時点ではほぼ使用不能の状態でした。ここまで復旧できただけでも奇跡かと」

「忌々しい・・・やはり奴が消えたことが痛いか」

部下は沈黙する。

「正確なポイントが分かり次第連絡しろ。わしが出る」

「はっ」

「奴らめ、まさかこんなに近くに潜んでいたとはな。くくく・・・久々に腕がなるわ」

確実にいる。長年の経験と実績に基づいた勘が訴えている。闇の中に不気味な笑い声が響き渡った。















       

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Neetsha