Neetel Inside ニートノベル
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駄作の集積所
無題②

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 春めいた香りを感じながら俺は高校生活最後の日を迎えた。思い出してみるとそれなりに楽しい思い出が蘇ってくる。
男友達とやった馬鹿騒ぎ、男友達とはしゃいだ文化祭、男友達と寺をまわった修学旅行……ハハ、全然女っ気がないなあ、俺。
「なにおまえ、泣いてんの?」
 となりの奴が話しかけてくる。べつに卒業式に感動して泣いてんじゃあないんだよ。けど、悲しいだろ! 彼女も作れず終わる高校生活なんて。
「非童貞にはわからんさ」
 無駄に哀愁を漂わせながら、おそらく童貞であろう友人Aに言う。そうしたらこいつは「かくいう私も童貞でね」なんてノってくるからふざけていると怒られてしまった。
 童貞には卒業式で騒ぐ権利すらないのかよ。
「いやいや、そんもん非童貞にもねえよ」
「おまえら馬鹿やってないで行こうぜ」
 友人Bが言う。卒業式は大人の事情でとっくに終わっていた。
 俺とAとBで打ち上げでもしようぜと話しながら校門にさしかかったとき、声をかけられた。
 ふりむくとおさげ髪の眼鏡をかけた可愛らしい女の子が立っていた。
「やったじゃねえかよ、おまえ」
 Aがひやかしてくる。そうと決まったわけではないが、顔を赤らめた女の子に卒業式後というシチュエーションで話しかけられれば嫌でも期待してしまう。
 女の子につれられて、友達から少し離れたところにくる。女の子はもじもじとしてなかなか話を切り出さないが、それ故にこれはもう確定だろう。
「あの、先輩……私」
 きた! きたぜ! 遠くでニヤけてるA達が視界に入るけどそんなの気になんねえほど俺は興奮している。
「私……」
「私……」
 ん? さあその先を早く言うのだ。さあ!
「………」
 聞こえないぞ。おい。
「……きろ」
 まさか。嘘だ――。

「起きろ!」
 俺は頭に強い痛みを感じて目を覚ました。目の前にはパイプ椅子を抱えたAが立っていた。おい、まさかそれで殴ったんじゃあねえだろうな。
「ていうか、女の子は! 告白は!」
「何いってんだ? どうせ都合のいい夢見てたんだろ。さっさと行くぞ」
 夢。夢か。そりゃあそうだ。そう都合よくいくわけないよな。
 幸せ絶頂から突き落とされた俺はAたちとの馬鹿騒ぎに加わる気にもなれず、ひとりどんよりとした空気を醸しながら、学校を後にした。
 結局、都合よく校門で声をかけてくれる少女は存在せず、俺は悲しみで人を殺せそうなほどブルーになる。
 悲しみで人が殺せるってどんな状態だよ、憎しみだろ。とセルフツッコミを入れる俺。むなしい。
 ふと何か聞こえた気がした。振り返ってみると誰もいない。どうやら幻聴まで聴こえるようになったらしい。
「先輩! まってください」
 いや、今度は確かに聴こえた。女の子の声だ。
 よく見てみると遠くから女の子が走ってきているのが見えた。
「あの……先輩」
 女の子は息をきられせて苦しそうに言う。その姿が妙に扇情的でどうにかしてしまいそうな俺を理性が押さえつける。
「先輩……」
 顔を赤らめて発した少女の言葉がどうやら俺に春を運んできたようだ――。

       

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