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バテレントXvsブラック大帝 第一話 魔人、起動

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 怪獣モノの特撮映画の撮影現場にいるような錯覚をうけるその光景に誰もが目を疑った。
 しかし、それは夢ではなく現である。
 そういえばアメリカの映画に巨大なゴリラが暴れまわるのがあったなあ、と誰もが現実から逃げつつ考えた。
 そのゴリラが、黒い毛をして丸太のように太い手足を持ち、岩のように堅く厚い胸板をもつ怪獣が突如としてあらわれたのだった。
 白い尾を曳いて三機の戦闘機が編隊を組んで飛んできた。
 それを見て誰もが歓喜の声をあげた。しかし、それはすぐ絶望のため息へと変わった。
 胴体両側面のウェポンベイから一発ずつ、計六発のミサイルが怪獣めがけて発射された。その全てが確実に頭部を中心に命中した。燃える爆発とともに黒煙があがる。誰もがその様子を固唾を飲んで見守った。戦闘機も旋回しながら爆煙が晴れるのを待った。そうでありながらもパイロットたちは互いに作戦成功を讃えあい、民衆はバカのように騒ぎ出した。
 しかし、黒い煙を貫くように一本の腕が伸び、戦闘機の一機を鷲掴み、そのまま握りつぶした。

 ちょうどその頃であった。
「博士! 行かせてください」
 団弾平は博士に乞うが彼は首を横にふった。
「しかし! それじゃあ何のために開発したんですか? ブラック大帝がきたんですよ!」
「弾平くんじゃ魔人の力を完全に引き出すことはできん」
 博士は悲しい表情で言った。それでも弾平は引き下がらなかった。
「そんなことはわかってます! だからといってここで行かずに何が正義ですか」
「……死ぬだけだぞ?」
「正義であれるのなら!」
 団弾平にとって正義であれるのならば命を賭けることなど造作も無いことだった。彼は自分の命よりも他人の命の方が重いと考えていた。弾平が魔神に乗り込もうとしたときだった。
地鳴りのような音が響き、巨人が目を覚ました。それはひとりでに動き出し、研究所の外壁装甲を突き破り飛びたった。

     

逃げ惑う群衆の中、相馬勇はひとり流れに逆らっていた。
「真尋! まひろっ」
 何度もはぐれてしまった妹の名前を呼ぶ。しかし、その声は悲鳴と怒号にかき消されてしまう。
 それでも人の波をかき分け、妹を探す。
 声がした。聞き間違うことなど絶対にない声が。
「お兄ちゃん!」
 真尋は兄の名を呼べた安堵から目から涙がこぼれていた。気の弱い彼女だ。心細かったのだろう。勇も勇で妹を見つけた嬉しさから涙を流していた。
 互いに駆け寄る。が、
「――ッ!」
 それは瞬間の出来事で、たとえ時間が永遠のように用意されていたとしても勇にはどうすることも出来ないことだった。
 一瞬、影がさしたかと思うと、それは落ちてきた。轟音とともに砂埃が巻き上がる。勇の視界を奪う。埃を吸い込み苦しそうに咳をしながら歩を進める。やがて視界が開ける。
 しかし、そこに真尋の姿はなかった。大きなコンクリートの破片が横たわっていた。すぐ横に建つビルの壁が崩れている。地面との隙間から赤い血が流れている。そこには既に何人かの人が寄りすがって涙を流し、うめき声をあげていた。
「ま……ひろ?」
 それは受け入れがたい事実で、勇はとても立っていられなかった。
 つい、ほんのいま、「お兄ちゃん」と呼びかけてくれた真尋が死んだ。それも落石に押し潰されて。
「そんなことって……そんなことってあるかよ」
 勇はうなだれる。拳を振り上げ地面を力いっぱい殴った。何度も何度も。拳が割れて血が流れるがそんな痛みがなんだというのか。
 勇の目の端で何かが光った。勇は四つん這いで這うようにそれに駆け寄る。
 それはネックレスだった。羽をモチーフにした銀のネックレスだった。首にかける鎖はちぎれていたし、片翼がなくなっていたが、それは勇が真尋の誕生日にプレゼントしたものだった。
 勇はそれを拾うと両手で抱くように握りしめた。
 勇は叫んだ。涙を流しながら。悲しいとか寂しいとか辛いとか感情が溢れすぎてどうして泣いているのかわからなかった。それでも真尋を想って泣いた。
 幾刻たっただろうか。涙が枯れて、顔をあげた勇の前にそれは立っていた。
「なんだ……よ」
 それは人の形をしていたが、人というにはあまりにも大きな鋼鉄の巨人だった。ロボット。一昔も二昔も前のスーパーロボットを連想させる造りだ。
 その巨人の目が勇を見ている。彼はそんな気がした。
「戦いたいのか? いや……戦わせてくれるのか」
 暗く燃える勇の瞳に魔人は何も言わない。ただその腕を勇へと伸ばすだけだった。

     

 バテレントXの足元を人々が囲んでいる。睨みつけるように魔神を見上げている。勇が降りてくるとそれはさらに強くなった。
「返してよ! 私の子供、返して」
 一人の母親が叫ぶと、堰を切ったように次々と群衆が非難の声をあげた。
 バテレントXが戦闘の中で壊したものの下敷きになったり、魔神に踏み潰された人間は十や二十の数ではなかった。
怪獣を倒した勇とバテレントXに対する感謝の気持ちなどまるでなく、逆に怪物がいなくなり怒りの矛先は勇達に向けられていた。しかし、そういう戦い方をしなかった勇にも責任があり、仕方のないことだった。
 勇は群衆をうつろな目で見つめた。彼らの言葉はまるで頭に入ってこなかった。
 怒りにまかせ怪物を殺したところで真尋がかえってくるわけなどなく、もう二度と自分に笑いかけてくれることがないのだと思うと途端に虚しくなっていた。
 民衆には勇というはけ口がまだ残っているが、勇にはそれがもうなくますます空虚になるのだった。
 群衆の中から一人、男が抜け出て勇に近づいてきた。鼻の頭がぶつかるほど近づくと男は勇をにらみつけた。
 にらみ合う二人、突如拳がとんだ。
「この馬鹿野郎が!」
 突然のことにふんばりの効かない勇の体は地面に倒れた。
「バテレントXは正義の使者だ! それがなんたることかっ」
 男――団弾平は怒鳴りつけた。魔人が反応するほどの強い意志が怒りや憎悪の類だったことに弾平は憤慨していた。
 博士の作った魔人はブラック大帝の機怪兵に対抗するためのロボットなのだ。それが正義のために使われないばかりか、目の前の少年の方が自分よりも魔人の力を引き出していることはどうにも認めがたいことであった。
 地面に倒れている勇に追い打ちをかけようと拳を振り上げる弾平を博士が慌ててとめた。
「よく見なさい。気絶してるじゃあないか」
 それは弾平に殴られたせいではなく、魔神に乗ったことが原因であったが弾平の怒りを鎮めるにはじゅんぶんだった。
 弾平は勇を担ぎ上げると、博士の車にのせ、研究所へと向かうのだった。

       

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