Neetel Inside 文芸新都
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ちよちゃんがお母さんと手をつないで、並木道を歩いています。
お買い物の帰り道、空は抜けるように青く、白い雲はお山のようです。
セミがそこらじゅうで鳴いて、ひたいには汗がにじんでいました。
「おかぁさぁん」
「なあに?ちよ。」
「アイスたべたい」
お母さんはちよちゃんのお願いに、困ったようにこたえました。
「ダメよ。早く帰らないと、買った物が悪くなっちゃうから。」
「えー」
「わがまま言わないの。帰ったら、冷凍庫のアイス食べていいから。」
「いまたべたいー」
「ちよ。」
お母さんが怒った顔でちよちゃんを見ました。
ちよちゃんはそんなにアイスが食べたかったわけではないのですが、
なんとなく、だだをこねてしまいました。
「やだっ!いまたべたいのー」
「ちよ、そんなわがまま言うと、置いてっちゃうわよ?」
ちよちゃんは置いて行かれるのはとても怖かったけれど、
何も言えずにお母さんをにらみました。
お母さんは「そう」とか「わかった」みたいな事を言って歩き始めました。
ちよちゃんは泣きそうな顔で立ち尽くしていました。

その時です。

あんなにうるさかったセミの声がぴたりとやんだかと思うと、
さあっと涼しい風がちよちゃんの頬を撫でました。
驚いたちよちゃんが振り向くと、
そこにはかみさまがふわふわ浮かんでいました。
かみさまはゆっくりとちよちゃんに近づいてきました。
そして、優しく、ちよちゃんの肩を叩きました。
すると今までがまんしていた涙が一気に溢れてきて、
ちよちゃんはとうとう声をあげて泣き出してしまいました。

「おかぁさぁん!」

ちよちゃんは走り出しました。

「おかぁさんごめんなさい!」

いつの間にかまた鳴き出したセミの声の中、かみさまは静かに浮かんでいました。

       

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