Neetel Inside 文芸新都
表紙

見開き   最大化      

「きもちーねー」

夕日に包まれた部屋の中、ちよちゃんは窓を開けて外を眺めていました。
いつの間にか季節は、涼やかな風を吹かせ、どこかで虫の鳴き声もします。
ちよちゃんは窓枠にもたれ、ぼんやりと、まだ青い庭の木や目の前を過ぎるトンボなんかを見ていました。
道を行く友達がちよちゃんに手を振っています。
ちよちゃんも手を振りかえしました。

「またあしたねー」
「うん!あしたねー」

その子は大きめのカーディガンを風に膨らませながら、お母さんの背中を追いかけて帰ってゆきました。

「ふー」

大きく息を吐いて空を見上げると、千切れた雲がゆっくりと流れていました。
台所では、お母さんがお夕飯の支度をしています。

(おてつだいしようかな…)

ちよちゃんは立ち上がると、台所へ行こうとしました。
そんなちよちゃんに、かみさまがすうっと近づいてきました。

「なあに?」

かみさまは、首を傾げるちよちゃんの肩を優しく叩きました。

「?」

ちよちゃんはかみさまが何をしたのかわからず、頭にハテナを浮かべたまま台所へ行きました。

「おかーさんてつだうよー」
「あら、ちよ助かるわ。ありがとう。」
「へへー」
「ただいまー」
その時、玄関からお父さんの声がしました。
「あっ、おとうさんだ!おかえりー」
「ちよ、ただいま」
「お帰りなさい。」
「うん、ただいま。ほら、ちよ、お土産だぞ。」
「ケーキだ!」
「あら、ケーキなんてどうしたのよ、珍しい。」
「何か急に食べたくなっちゃってさ。ちよ、後で食べような。」
「うん!」

ケーキは、ちよちゃんの大好きなモンブランでした。

お夕飯のあと、美味しそうにケーキを食べるちよちゃんをみつめながら、かみさまは優しい歌をうたっていました。
庭では、秋の虫がうたっています。
その歌は、夏よりも賑やかに、夜を彩っていました。

       

表紙
Tweet

Neetsha