Neetel Inside 文芸新都
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お題③【気付いた】


 喧嘩なんていつもの事。
 つまらなくてくだらない、小さな嘘だった。
 それを見抜かれたのが今日の切っ掛け。
 顔はテレビに向けたまま、
「はんせいしてまーす」
 謝る言葉を口にするだけなら簡単で。
 怒られる事には慣れているし、受け流す事にも慣れている。
 だから、彼女もそうだと思って……甘えてたんだ。


 向かいの席から彼女が居なくなって、気付いた。
 ――気付いてからでは、遅い訳で。


 きっと電車に乗るだろう。
 ――急がないと。
 林を突っ切れば間に合うかな。
 ――追いかけないと。
 全力で走るが、すぐに身体がついてこなくなる。
 ――謝らないと。
 時折迫り出した枝や葉が頬を掠めていく。
 ――あーあ。
 林を抜けて遠目に見えた電車は、すでに走り出していた。


 気付いてから初めて、居なくなったんだと実感する。
 ――実感してからでも、遅い訳で。
 

 家に帰り着くと、彼女がドアに寄りかかりながらつま先を上下させていた。
「どこ行ってたの?」
「……煙草買いに」
「また嘘」
 俺の頭を指しながら彼女は言う。
「葉っぱ、付いてるよ」
 嘘はつけないって事にも気付いた。




※没理由:ラブコメじゃない。
 お題が出揃った時に書いた物で、一番最初に投稿する予定だったもの。
 四行目にあるテレビの件に「ラブコメ物のドラマ~」とか突っ込んでも良かったのですが、読感が悪かったので。

       

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