Neetel Inside 文芸新都
表紙

短編小説っぽいもの
メガネスイッチ教室

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 コンクリートの建物と灰色の空、冬の都会
ほど寒々しい場所はない。そんな寒々しい都
会の一角にメガネスイッチ教室はある。
 メガネスイッチ教室という一度聞いたら忘
れられない名前を広告で見た私は、足を運ば
ずにはいられなかった。賃貸マンションの二
階の窓に貼られた半紙に、一文字ずつ「メ」
「ガ」「ネ」「ス」「イ」「ッ」「チ」「教
室」の文字。何故「教室」だけ二文字なんだ
と心の中でつっこみを入れつつ、私は建物の
中に入った。一階は似顔絵教室、三階はかえ
歌教室。二階だけは話し声一つ聞こえてこな
ったのがやけに不気味だった。上の教室から
はかえ歌がが聞こえてくる。
♪「も~い~くつ寝~る~と~、寝正月~」
「寝てばっかじゃん。」とつっこみを入れつ
つ、私は教室に入った。
 中に入って私は鳥肌がたった。念のために
いっておくが感動したわけではない。生徒た
ちがただひたすら、メガネを着けたり外した
りしているのである。
「な、何だこりゃー。」
「目ぇ悪くなりそー。」
「さんざん引っ張っておいて、それがオチか
ー。」
私はもはや心の中ではつっこまなかった。声
に出して、まくしたてるようにつっこむ。講
師らしい人物が近づいてきて言った。
「メガネスイッチ教室は、メガネを外すとス
イッチが入って別の性格になるように、自己
暗示をかけて、新しい自分を発見、開拓する
のが目的です。」
私はようやく恐怖から解放された。何だ、少
しオカルトチックだが、名前のまんまの教室
ではないか。私はかえって興味が出てきたの
で月謝はいくらか尋ねた。
「月、二十兆円です。」
「たっかー。国家予算並じゃねーか。」
私はもう頭にくるのを通り越して、馬鹿らし
くなった。見学だけして帰ることにした。
「二十兆円の価値があるか見せてもらおうじ
ゃないか。」
ところが、ずっとメガネを着けたり外したり
しているばかりで、がっかりした。
「さっきと、同じではないかー。もう帰りま
す。」
げっそりして教室から出ようとしたその時。
「待ちたまえ。出て行くなら私のメガネを外
してから行けー。」
と講師がまるで、私を倒してから行けーとい
う言いまわしで叫んだ。講師のメガネを素直
に外す。
 するとみるみるうちに、講師の仏のような
穏やかな顔が極道の世界の修羅の顔に変貌し
ていく。
「見学料、二十万円払ってもらいましょうか
。」
「しまったー。ボッタクリだー。」

                 終わり

       

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