Neetel Inside 文芸新都
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暇つぶし
空戦

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 私は今、大空を飛んでいる。
 目的はただ一つ、敵国の戦闘機を打ち落とすこと。
 私自身はあまり殺生を好まない。できれば相手を打ち落とすようなことはしたくない。
 しかしこれは命令だ。国を守るため、私は心を鬼にして一人のパイロットを海の藻屑にするべく空を翔る。
 本当にこれでいいのだろうか? 私のような者がこんなことを考えるのはおこがましいことかもしれないが、命令に従って敵を殺すことが正しいことなのだろうか。
 私が今狙っている戦闘機のパイロットには家族や恋人、友人がおり、それらの人たちのために彼は戦っているに違いない。彼が死ねばその人はきっと悲しむだろう。
 私の行いが悲しみを生むのだ。
 だからといってわざと攻撃を外せばいいというわけではない。
 私がそのパイロットを生かしても、彼はこちらを殲滅するために攻撃を加えてくるのだ。それで我が軍のパイロットが死んだとする。そのパイロットの親族はきっと悲しむだろう。
 やはり私の行いが悲しみを生むのだ。
 綺麗事なのは自分でも理解しているつもりだ。これは戦争、私とは関係のない場所でも多くの人が悲しい思いをする。
 だけど私の心は納得しないのだ。
 敵との距離が迫る。早く決断を下さねばならない。
 私は全ての感情を押し殺して、戦闘機を撃墜させることを決意する。結局本来の目的に戻った。
 戦闘機との距離はさらに縮まる。この距離で外れることはないだろう。数秒先の未来で一つの命が失われる。それが確定した。
 どうして私には心があるのだろう。なぜ物事を考えることができるのだろう。
 これはきっと神様の悪戯。なんて意地悪な神様なのだろうか。
 ただの兵器に心なんて必要ない。私は神様を憎む。
 この憎むという感情も、神様の悪戯があるから抱けるものなのだと思うと笑いたくなってしまう。
 眼前に迫る戦闘機。衝突までコンマ数秒。
 その刹那、私は心の中で「馬鹿野郎!」と叫び――――爆発した。
 

       

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