そしてこれが十二順目。九筒を残しての純チャンピンフに受けなかったのは六筒が残り一枚、九筒が枯れているためだ。
チャンタ三色ドラの親マンガン。
無論、私は放銃しないが疲労がたまっているのか頻繁に目を瞬いている鴉羽氏なら生牌の東でもひょっこり捨ててしまう可能性はある。
だからその前に、私は贈り物をしてやることにした。
次のツモでヤマから鴉羽が東を引く。そこで、
「チー」
私は狗藤の牌を喰い取った。
これで東はシマの元へいってしまう。
だがそれでいいのだ。
アガリ牌を引いてきた時のシマの顔は実に見ものだった。
手牌は倒されない。
そう、やつはアガれないのだ。
チャンタ三色ツモドラ一では、親のハネマン、六千オール。
残り五千三百の狗藤が飛ぶ。
本来なら三着から二着へ浮上し、ハコテン終了ならアガってもそうおかしなことではない。
だが、そう仕向けたのは他ならぬこの私だ。
その手をアガるということは、私のトップを確定させるということ。
この麻雀で常に私に対して奇妙な親密さと激しい敵愾心を燃やしていたシマは、この贈り物を拒否するだろう。
誰がおまえなんかの思惑に乗るものか。
そんな彼女の言葉を幻聴する。
そしてシマは突き放すように自らのアガリ牌を捨て去って。
「――ロン」
狗藤のヤミテンに、放銃した。
「チートイツドラドラ、六四だ。悪いな、シマ」
シマはなにも言わない。やはり放銃したとは思えぬほど穏やかに決められた点棒を渡すだけ。
それでいい。そうやって己の流儀とやらを守っていけばいい。
私は勝つ。白を黒に曲げても勝つ。
この世には守るべき戒律も、誇るべき価値も存在しない。
ただ在ること。それだけで十分なのだ。
おまえのように、情熱に生命を預けるなんて、夢物語に過ぎない。
もし、そんな夢を見続けるというのなら。
おまえの末路は、永劫に終わらぬ炎獄でしかない。
大勢は決した。南三局。狗藤の親番なんぞゴミと同じである。
私は悠々とした気分で鴉羽とシマを交互に見定める。
鴉羽とは二万とんで三百点の差。ハネツモでも倍ツモでもギリギリ耐え切れる。
そして私は決して振り込まない。
恐ろしいのはダブルリーチクラスの早熟手だが、早くて重い手がこんなところで都合よく来るわけはない。来たら泣いてやる。
よって、私の負けは九十九パーセントありえない。
だが不安要素は、六順目、唐突にやってくる死神のノックのように私の元にやってきた。
ドラの緑発がシマの手にトイツになっているのだ。
そうして聴こえてくる牌が増えてくる度に、少しずつ私の背筋を悪寒が走っていく。
赤ドラが二丁、入っている。ドラ四。
「ここまで我慢してきたんだから、そろそろ来てよっ……と」