お祭りに来て、大体夜店も見て回った。
 たこ焼き売ってた母ちゃんからお小遣いもらって、食べたいものも、あらかた食った。
「かっつん。次、どこ行く?」
「そうだなぁ……これ、面白そうじゃないか?」
「どれどれ?」
「旧校舎の南口で、六時から肝試し大会。豪華賞品あり!」
「おー、夏といえば、やっぱこれだよなー!!」
「どうせ子供騙しだろうけどな。まぁ、行ってみるか」
「うん!」
 肝試し大会。これは男なら参加するっきゃないだろう。
 そんなわけで、旧校舎の前にやってきた。
「結構集まってんなぁ」
 入り口前には、男子と女子の、細長い二列が出来ている。列の一番後ろにいたお姉さんがにっこり笑う。
「君達も参加者ね。男の子はこの箱の中から、青い紙を一枚引いてね」
 言われた通り、二つ折の青い紙を一枚取ると、中には「十五」って書かれてた。かっつんは「九」。
「それが君達の番号ね。同じ番号の女の子を探して、一番から順に、中に入ってね」
「えっ、これって、友達と一緒に入るんじゃねーの?」
「もしかして、男女混合ですか?」
「そうっ! 男の子ならやっぱり、女の子を守ってあげないとねっ!!」
「……えー、めんどい」
 なんでか知らないけど、お姉さんは、とっても楽しそうだ。
 かっつんも、流石に予想外だったみたいで、首を傾げてる。
「どうする、かっつん。やめとく?」
「うーん……」
「こら、そんなつまらない顔しないっ! きちんと女の子を守れたら、最後に豪華商品が待ってるのよっ!」
「あ、それ案内にも書いてたな。もしかして俺たち、大金持ちになれちゃったりする?」
「そんなわけねーだろ」
 すぱーん。
 かっつんの手厳しい突っ込みが飛んでくる。
「いってぇな、叩かなくてもいいだろっ!」
「アホは叩いて治さないとな」
「なんだとー!」
「はいはい、喧嘩しないの。でも大金持ちになるのは、ちょっと無理ねぇ。豪華賞品は、お菓子の詰め合わせ袋じゃ、ダメかしら?」
「な……なんだってっ!」
 俺は、自分の耳には、自信があるっ!
 今の言葉を聞き間違えたりは、しないのだっ!
「全然大丈夫! むしろ大歓迎!!」
「……涎でてんぞ。お前、さっきまで夜店回って、めちゃ食ってただろーが。まだたりねぇのかよ」
「フフフ。今更怖気ついたのかね、戸田勝也クン」
「……お前って、本当、調子のいい奴だよな……」
「うむ! もっと褒めてくれたまえ!」
「いや、違くて……お前みたいな奴って、将来、詐欺とかに引っかかりそうだよな」
「そんなことはないぞ!」
 悪の手先の、口先三寸ごときに、このきつね仮面が、ひっかかるはずもない!
 学校でも、そういう話はなんども聞いたし、絶対大丈夫っ!
 自信満々に胸を逸らす。
「……不安だ」
 そうしたら、かっつんが、さらに怪しそうな目で見てきた。なんでだ。
「ほらほら二人とも。参加するなら早く、自分の番号のところに、並んだ並んだ」
「かっつん、やろうぜ! もちろん、お菓子のためだけでなく、男の勇気を見せるためにもなっ!」
「そうそう、その調子よ! きつねクン、君、わかってるじゃないの!」
「だろー!!」
「……わかった、わかったから。恥ずかしいからやめてくれ」
 そう言って、一人ですたすた男子の列に向かっていくので、慌てて後を追いかけた。

 俺達は言われた通り、順番に男子の列に紛れ込んだ。かっつんとは、ちょっと距離があって、話せそうにない。
「暇だなー、まだ、始まらないのかなー」
 一人で、豪華賞品の中身を考えつつ、女子の列を眺めてた。
 今んとこ、知ってる奴は見当たらない。
「そろそろ肝試し大会をはじめまーす。まだ並んでない人は、急いで順番通りに並んでくださいねー!」
 さっきのお姉さんが、メガホンを持って、大きな声で叫んでる。
 校舎にある時計を見上げると、もうすぐ六時だ。
 空はやっと暗くなり始めてる。時計の針が、影の中に隠れようとしてた。
「―――ねぇ、あなた、何番?」
 その時、聞き覚えのある声がして、もう一回、女子の列を見る。
「私ですか? 十四番です」
「ありがと。あ、ちょっと、後ろ空けてもらえるかしら?」
 小走りで、列の間に入ってきた浴衣姿の女子。俺を見た。
「…………きつね?」
「水原じゃん、お前も来てたんだな」
 同じ組の水原幸(みずはら さち)だった。
 頭が良くて、すごく真面目で、小さな先生みたいな女子だ。
 桃色の浴衣を着て、浴衣の帯と足に履いている下駄の鼻緒。
 俺のとちょっと違うなぁ。なんか、女子っぽい花柄模様が咲いている。
「きつね。あんたも肝試しに、参加してるの?」
「そうじゃなきゃ、並んでないだろ」
「どうせ豪華賞品に釣られたんでしょ。男子って単純馬鹿だもんね」
「うっせ。それより水原、もしかしてお前、十五番?」
「あたしと番号が被ってるとか言ったら、殴るわよ」
「まて! 話合えばわかるのだ!」
「必要ないわ」
 慌てて一歩後ずさる。水原は頭は良いんだけど、暴力的なのだ。
 殴るぞって言った時は、容赦なく殴ってくる。身を持って経験済みだ。
「最悪だわ。知らない男子と組むよりは、まぁ、いいかもしれないけど」
「なんだよ、その言い方」
「文句ある?」
「あ――――」
 俺の耳が、危険を察知する。黄色信号。
 まだ間に合う、引き返すのだ。
「ありません」
「…………ふんっ」
 助かった。
 相変わらず、水原は恐ろしい女子だ。なんでもかんでも、自分の思った通りにならなきゃ、気が済まないところがある。
 たぶん、俺は水原から嫌われてるんだろうなぁ。いっつも怒られてるし。
「きつね、あんたと話すことなんて、なんにもないんだからねっ!」
「なんだよー。俺、まだ、なんもしてねーぞ」
「じゃあこれから、なにかするわけ? きつねのすけべ!」
「変なこと言うなよっ!」
 一応、嫌われてるんだろうなって思う原因に、心当たりはあるのだ。
 でも、ちゃんと謝った。謝ったんだけど。
「余計なことしないでよねっ! きつねの鈍感!」――って、顔を真っ赤にして、凄く怒られたのだ。「どんかん」の意味が分からなかったから、家にある国語辞典で調べたんだけど、「にぶい奴」って書いてあるだけで、ますます意味がわかんなかった。
 俺、体育の成績だけは、いいんだけどなー。
 
 それから、水原と顔を合わせられないまま、六時が過ぎた。
「みなさーん! そろそろ六時になるので、説明を始めまーす。今から順番に旧校舎に入ってもらい、四階にある六年生の教室から、魔除けのお札を持ってきてもらいます。男の子と女の子、それぞれが一枚ずつお札を持って帰ったら、豪華商品と交換です! では、最初の組の人、中に入ってくださーい!」
「いよいよだなー!」
 最初の一組が、旧校舎の中に入っていく。楽しみで、少しどきどきしてきた。
 こっそり水原の様子を見てみると、眉をひそめて、怒ったような顔で俯いてる。
(……俺、また怒らせたのかなぁ)
 なんで怒ってるのって聞いたら、また「どんかん!」って、怒られそうな気がした。だから結局、順番が来るまで、黙ってることにした。