Neetel Inside 文芸新都
表紙

反社会同盟
第一話 夢

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 木島良一は反社会同盟の同志達とともに大学で抵抗を続けてきた。木島と同志達はヘルメットとゲバ棒スタイルで武装し、投石や火炎瓶を使用して機動隊と戦ってきた。
 が、それもだんだんと限界に近づいてきた。今、木島達は完全に機動隊に包囲されていた。
 やがて木島の同志、吉田は最後の演説を行い始めた。
「諸君、今我々は国家権力によって押しつぶされようとしている。七十年安保粉砕のスローガンが果たせなかった事は残念だ」
 同志吉田はそこで深く息を吸った。
「だが、しかし我々の活動は無駄ではない。これから活かされる事だろう」
 木島は大きくうなずいた。その通りだと思ったからだ。
 やがて機動隊が突っ込んできた。木島達は必死に戦うが、だんだんと押されていき……。

 そこで木島の意識はふっと現実に舞戻った。彼の部下の課長に声をかけたからだ。
「部長。起きてください。仕事場の机で寝ないでください」
「うん。どうした同志よ」
係長は心配そうに、尋ねた。
「大丈夫ですか。部長」
 頭が働き始め、木島は今が二〇〇九年という事が分かった。安保闘争時の一九六九年ではない事が分かった。そしてここが会社だという事が分かった。機動隊に囲まれている大学ではないという事が分かった。
 木島はあわてて答えた。
「すまん。寝ぼけていた」
 その答えを聞くと部下は机にもどり仕事を再開した。
 木島も必死に仕事を始めた。
 なぜなら木島は彼には負けたくなかった。
 彼は三十四なのにもう課長に昇進しているからだ。木島は五十八なのに部長だ。もうすぐ並ばれるという噂もある。屈辱なのだ。若造に並ばれるのが……。若造に出世競争で敗北するのが……。
 木島はこの居眠りで彼に負けてしまったような気がしたのだ。傾倒は七十年安保闘争後急速に収まっていった。そして大学を卒業する頃彼は完全に一般人になっていた。それはまるで熱病からさめるようだった。
 そして、この会社に就職した。大きくも小さくもないこの会社に。彼は必死に会社のために働いてきた。家庭も省みずにだ。
 やがて定時になり彼は退社した。昔ならこんなことはなかったが、不景気の影響で仕事が減っているのだ。
 
 電車に揺られること数十分、彼は埼玉の我が家に着いた。
 家は一戸建てだ。四十年ローンだ。三十年前建てたからあと返済までに十年かかる。
 せっかく早く帰ってきても木島を歓迎してくれる家族はいない。妻と娘は木島をあまり愛していないのだった。当然と言えよう。彼もまた妻と娘をあまり愛していないのだから。
 する事がない。家族との会話も上手くできない。テレビを見たり、自分の部屋で本を読んだりして時間をつぶす。

 風呂に入りながら彼は思い出し始めた。自分が大学生のころ同級生達と反社会同盟というグループを作って、安保闘争をやっていた頃のときを……。

 俺は一体なんであんな事をしたんだろう。木島は思い出そうとしたが思い出せない。
 当時の事を思い出そうとしたがなかなか思い出せない。思い出せたのは今日夢で見たあの場面だけ。といっても本当の事かどうかは分からないが……。

 結局答えが出ぬまま、木島は風呂から出た。すると娘が声をかけてきた。
「お父さん。お風呂入ったの」
 彼は力なく答える。
「ああ。そうだ」
 その言葉を聞いて、娘は露骨に嫌な顔をしながら言った。
「えー。じゃあお湯抜いといて」
 彼はしばしの沈黙の後答えた。
「分かった」
 やれやれいつからこんな風になったんだろうか。彼は考えた。幼稚園の頃はかわいかったのに。このような態度を取り始めたのは、中学校に入り始めてからではないだろうか。と。
 彼はいつのまにやら娘の態度に慣れてしまった。こんなものだと。しょうがない事だと。あきらめてしまったのだ。

 木島は押し入れを開けた。そこに入っているはずの反社会同盟の同志達との写真を見つけるためだ。
 写真は案外すぐに見つかった。そこに写っている木島は若々しくて、希望に満ちあふれているように見えた。今はすっかりなくなってしまった髪もある。

 反社会同盟の友人達との写真はほかにも何枚かあった。が、それをみて木島が感慨に耽る前に妻が怪訝そうな顔で声をかけてきた。
「お父さん。ちらかして。片付けてくださいよ。困るんですから。じゃあ私はもう寝ますから」
 彼はおどおどと答える。
「あ、ああ。ちゃんと片付けるよ。お休み」
 妻は返事もせずに寝室へ向かっていった。

 木島は写真を見るごとに様々な事を思い出した。皆で理想を語り合った事や、警官と戦った事だ。
 彼はアルバムに紙が挟まっている事を発見した。それは反社会同盟の名簿だった。
 彼は親しかった友人に電話をかけてみようかと思った。
 が、彼を睡魔が襲い始めた。
 また今日のような失態をしては大変だ。本当に課長に並ばれるかも。彼はそう思ってすでに妻が寝ている寝室に向かい、すぐに床についた。
 とはいっても彼は妻のいびきがうるさくて、なかなか眠れなかったが。
 

       

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