Neetel Inside 文芸新都
表紙

探偵 佐伯泰彦 対 超人X
第五話  「二十九日ノ零時、超人X アラワル」

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第五話  「二十九日ノ零時、超人X アラワル」


起:ボタン

 ”真実は、誰も信じられないような場所から掘り出される。”
 佐伯先生はよく僕に言っていた。
「犯人だって馬鹿じゃあない、良く考えている。だから僕らは、彼らの立場に立って物を考えるんだ」
 先生はそう言って府立美術館の別館を特に念入りに調べていた、すると…
「ようし!見つけた、やっぱりそうだ」
 彼は別館三階の倉庫の中に綺麗に折り畳まれた、いくつかの服を取り出した。それは必要に応じて切り替えるのか、三種類の服が用意されており、”軍警察の制服”、”大阪府警の制服”、それに”佐伯先生の洋装”まで見事に揃えていた。
「恐ろしい奴だ、まさか僕の分まで用意しているとは…」
 佐伯先生は僕を見て苦笑いを見せる。それにつられて僕も苦笑い。
 超人Xは佐伯先生にさえ化けるつもりだったのだろうか…先生の話によれば、それこそ見事な変装を行うらしい。
 僕は少し身震いをしたようで、体が足元から“かぁぁっ”と熱くなるのを感じた事を覚えている。

「先生、この服はどうするのですか?」
「ん?どうすると思う?」
 佐伯先生は笑顔で、僕の質問に対して質問で返して来た。
 これには流石に少し戸惑ったが
「うーん…僕だったら取り敢えず、こんな所に置かずに持って帰ります。超人Xがもしも誰かに化けたら大変ですからね」
 僕は顎を親指と人差し指で摘まみ、生えてもいない髭を撫でる様に親指で何度も顎の皮を摘まむ。
「うん、正解!正チャンは正しいよ。ただし…それが普通の相手ならね」
 ふふふっと笑い、佐伯先生は懐から小さな裁縫道具を取りだすと、超人Xが隠していた三つの制服に小さなボタンを縫い付ける。
「これは僕と正ちゃんだけの秘密。もしもの時は制服のボタンが多い者を探すんだ。分かったかい?…ついでに僕の服は一つボタンをはずして、そのボタンをこの服に取りつけておこう」
 そう言うと御自分の上着のボタンを一つ取り外し、それをもう一つの服に縫い付ける。
「これは誰にも言ったらダメだよ」
 佐伯先生は僕の頭を撫でて、再びニコリと笑った。



承:カレイライス

「もう、後二刻で零時であるな。警備の方は?」
「はい、異常はありません」
 ここは府立美術館本館二階、足利大佐は配下の兵隊に警備体制の再確認を行っていた。
 なにぶん今日の夜、世紀の怪盗がここにやってくるのだ、それも一筋縄ではいかない大物である。自然と士気は高まり、彼の顔は血気立つ。
「便所に行く際も三人組、常にお互いを見張り合って超人が内部に侵入出来ない様に心掛けております」
「宜しい」
 足利大佐は手に持つ杖でカツンと音を立てた。一応は納得し、安心もしたがやはり不安は拭いきれない。
 彼は杖で何度も床を叩き“カツンカツンカツンカツン”と、いかにも“苛立っています”と言う雰囲気を醸し出していた。
「大丈夫ですよ、今回は綾ノ森少佐も居りますし、探偵の佐伯君も居ります。今までの様には行きませんよ」
 後ろから声を掛けたのは大森警部とその配下の刑事が三人。
 くるりと振り向き、“カツンカツン”と二回音を鳴らす。
「大森君、君は今回の内容を忘れたのかね?君の記憶力はその頭に乏しく残った毛の様に薄いものかね」
 真っ赤な顔をして、突如足利大佐は激怒した。それも当然である、今回の作戦の胆は”誰も入れない”これである。
 作戦を考え指揮をするのは綾ノ森少佐、彼が考えた作戦は実に単純
”三階の展示室には「綾ノ森、足利、大森、佐伯」この四名だけで「永遠の炎」を見張る事”
 その他の者は一切入る事を禁止され、どのような場合であっても三階への侵入は許されない。
 その為、途中で外部の者を入れない様に遅刻を厳禁としていた。
「誠に申し訳ない。ささっ、どうぞご確認下さい」
 大森警部は両腕を上げ”無抵抗”の仕草を行う。それに応じ軍警察の兵隊が彼の体を念入りに調べ、そして調査が終わると「本人であると思われます」と調査した兵隊は声を上げた。
「洋風に言えば”ボデイテェック”というやつですかね。いやぁ、男に色々触られるのは慣れませんな」
「フン、うちの部下も脂ぎった中年の男を触るのは気持ちが悪かろうよ」
 相も変わらず棘のある言葉を投げかけ、彼はそのまま三階の階段へと足を向ける。
「ああ、足利大佐。腹が減っては戦が出来ないと申します。府警から今回の警備参加者全員への弁当を預かっておりますが、如何ですか?」
 その言葉に、足利大佐の足は止まり、顔だけ大森警部へ向けた。
「そんな物は遅刻の言い訳にはならんぞ…」
「カレイライスを用意しておりますが…大佐はお嫌いですか?」
 少しの間沈黙が流れる。
 そう言えば美術館内から良い匂いと、ざわめきの様な声が聞こえて来る。
「…我々軍人はオロシヤとの戦争の際にカレイライスを食べ士気を高めたものだ。大森警部にしては上出来な選択であったな」
 そう言うと足利大佐は出来る限り威厳を保つように首を上げたまま一階へと向かうが、その顔は少しニヤけている。
 そして階段を下りる頃には小走りとなり、一階へと降り立った時には部下を押しのけカレイライスの鍋へと突っ走っていた。

「なんとも…あの鬼軍人ともあろうものが、扱い安いものだ」
 足利大佐の姿に大森警部は苦笑を洩らした。



転:ヌゥドショウ

「いやぁ、申し訳無い。本当に悪気があった訳でも寝坊した訳でも無いのですよ」
 ついさっき聞いた言葉の様にも聞こえる、しかし当然別人。
 そう、佐伯先生がようやく府立美術館の本館へと姿を現したのだ。
 時刻は後一刻半で予告の時間となる、そんな大遅刻に当然足利大佐は大激怒。
「裸にひんむいて確かめろ!!」
「いや、本当に僕は佐伯ですから!超人とかじゃないですから!止めてください」
 襲いかかる五人の兵隊に一瞬で丸裸にされ、全身を満遍なく調べられ、ようやく本人だと確認された時には無残にも床に裸のまま転がされていた。

「だから違うって言ったのに…もう僕は三十二ですよ、流石に立ち直れません…」
「うん…災難だったね。でも遅刻する方も悪いからさぁ」
 大森警部が急ぎ服を着直す佐伯先生に声を掛ける。
「何も遊んでいた訳じゃないんですって。情報とか調査とか、色々やっていたんですよぉ」
 少し不機嫌な口調で、ようやく上着のボタンを付け直した佐伯先生は急ぎ足で階段へと向かう。
「まぁ、実は私も遅刻して同じ様な事をされたんだ。だからお互い様だよ」
「え…うん…、言葉も無いです…」
 何とも言えぬ気色悪いものを想像した佐伯先生は、言葉が浮かばずに苦笑いをして返す。
「で、何をして来たのかね?何か分かったのか?」
 少し笑顔を浮かべて先生は大森警部に
「内緒です!」
 とだけ言っていつもの様にニコニコしながら階段を駆け上がった。


 彼らが三階の展示室に到着した時、室内はシンと静まり返っており、そこには月光を浴び揺らぐ永遠の炎を冷たい眼差しで見つめる綾ノ森少佐が居た。
「すいません、遅れましたね」
「いえ…問題無いです。例え私だけでも問題は無いのですから」
 彼の眼差しは既に狼の様に獲物を狙う猛獣の目となり、佐伯先生や大森警部の姿も映っていない様に見える。
「後どれくらいですかね?」
「もう、後半刻もすれば必ず動きが有るでしょう。それまで気を抜かずにお願い致します」
 彼の体からは冷たい一種の気迫が立ち上がっている。それは恐らくどんなに鈍感な人でも”触れてはならない”と即座に理解出来るものと思われた。

 そして足利大佐は無言のまま室内に入り、四人の視線が永遠の炎で交差する。
 ただただ静かな中で、時間だけが無機質に流れて、そして…その時が来た。



結:超人X 約束ドウリ 参上イタシタ

「もう後一分で零時です」
 綾ノ森少佐が静かに言葉を放った。
 約束の時刻は零時丁度、否応にも緊張感が高まる。

「五、四、三、二、一…」
 秒針が十二を差し、美術館のカラクリ時計から静かな曲が流れだす。
そう、たった今二十九日となったのだ。
 だが、そこには静かで何も起こらない静寂の空間だけが流れ。永遠の炎は、未だに静かな揺らめきを壁に写す。
「…何も起こらないじゃないか…」
 大森警部は立ち上がり辺りを見渡す。そして窓辺へ着いた時、彼は大声で叫んだ。
「外だ!!外に超人Xが来ている!!」
 綾ノ森少佐、佐伯先生共に立ち上がり窓辺へ移動する。
 そこで見た物は…

 まるで無人の野を闊歩するかの如く堂々と美術館の正門から歩いて来る人影であった。
 月明かりの為なのか、やや浮く様な輝きを纏い、超人はゆっくりと正門へと向かって歩いている。
「警備の兵隊はどうなっている?」
 綾ノ森は叫んだ、だが声に呼応する者は無く静かなままであった。

「何故誰も気が付かない…」
 三人はまるで幽霊でも見ているかの様に、ただ茫然とその姿を眺めていた。

       

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