Neetel Inside ニートノベル
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案を聞いて、次の瞬間には
「ふざけるなァ!!」
と浅田の鉄拳が降った。
ひぃ、と言う悲鳴が、広い感じのする教室に響いた。
確かにふざけてる。
しかし、絶対に遅刻しそうにない案ではあった。
先生もちょっと苦い顔をしたが、
「んー、ま、明日一日、渡辺の案でいくかな」
と、渡辺の案を試しに使ってみることにしたようだった。


その次の日。
朝の日差しがまだ薄暗いなかだ。
校門前には、まだ門が開いていないというのに、人がたかる。
渡辺の案はこんな感じだった。
クラス全員から100円ずつを徴収し、みんなが学校に来た順位に応じてその集めた金額の何割かを報酬として出すというもの。

一部の人にとっては、100円を失うかもしれないので、たまったものではない。
しかし、1位で教室に入れば、1000円あまりが手に入る。願ってもない収入だ。
誰よりも先に教室に入りたい、そうなると、この時間にスタンバイするのが一番いい。
というわけで、金の亡者たる男子を中心に、クラスのほとんどが校門に集まっているというわけだった。
午前6時半。
用務員の人が門を開ける。
ガラガラと言う音と共に、人が雪崩の様に玄関目指して突っ切っていく。
押し合い圧し合いになるのは、もはや自然の節理。
そしてものの数分後には、教室に至る道のいたるところでちょっとした乱闘が勃発する。
教師という教師はまだこの時間には学校に来ていないので、抑止力のないままそれは拡大していく。

俺が学校に着いたのは、そんな乱闘の最中だった。
まず、「ふざけんじゃないわよ」という怒鳴り声を聞き、次に、「なにやっとる、この馬鹿野郎」と言う先生の怒鳴り声が聞こえ、さらに別の先生が海外ドラマでよくやるような外人の肩竦めのポーズで出迎えてくれた。
倒れた掃除用具入れのロッカーや折れた箒を横目に、嫌な予感が胸の中を駆けずり回る。
まさか…と俺は思ったのだが、その気持ちを裏切らない光景が待っていた。
教室に着いたとき、引き戸はガラスが飛び散り、いくつかのものは壊れ、隅のほうでは弱気な男子、あるいは女子が泣き、そして、教室の真ん中では盛大にジャンケン大会が行われていた。
色々言いたい事を呑み込んでそこにじっと立ち尽くしていると、俺が教室に入ってきたのを全員が気付き、全員が俺のほうを向いた。
「……」
つかの間の沈黙。そして、
「…何やってんだ」
それが俺の第一声だった。


結果として、遅刻者はゼロにはなったわけだが、その代償は計り知れなかった。
物は壊れ、変形し、一部では喧嘩にもなった。
「だから、ふざけるなって、言ったんだよ」
「うぅ……」
渡辺は泣きべそをかいていた。
「あら、でも遅刻者ゼロよ、ふふっ」
そういう西野の手には、千円札が握られていた。
どうやらジャンケン大会を制したのは彼女だったようだ。
「いーじゃんか、別に。面白かったんだからさ」
賞金は逃したものの、中嶋はさほど気にしてはいないようだ。
「そうだ、まぁ、君のおかげで遅刻が出ずにすんだ」
鳴海先生もねぎらった。
「せ…先、生」
少しうれしそうな顔をする渡辺、しかし、
「……でもな」
突然先生の表情が暗くなる。
渡辺は息を呑んだ。
「割れたガラスとか、壊れた物については、責任取れよ」
この学校内の物はすべて、指導部のもの、らしい。
だから渡辺は、ガラスなどを元通りにするために、指導部へ行かなくてはならなかった。
「……うぅ」
とぼとぼと行く渡辺の横目に、ナンマイダーと念仏を唱える中嶋と浅田がいた。

       

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