次の日。
「今日も来てないのね」
美咲は少し落ち込み気味。
「……」
図書室は物凄い静かで、話をしないとすぐに空気の重力に負けそうになるので、私は美咲に話しかけた。
「……そういえば」
そのまま、ちょっとの間を空け――その間、美咲は不思議そうに私を見ていたのだけど――私は続けた。
「来週、鳴海先生の結婚式があるらしいね」
「……へぇ」
やばい。押しつぶされる。
「みんなで祝おうって、3組の人たち頑張ってたよ」
「……そうなんだ」
助けて。誰か助けて。
必要以上にギクシャクした空気に私達2人、時間が止まったように感じた。
そこに
「よ、園山」
果たして救いか否か、浅田がやってきた。
「ちょっと、園山に話があるんだが、いいか?」
「はぁ」
私は目をぱちくりさせていた。
図書室の外に連れ出され、私は浅田に、
「なに?一体どうしたの?」
と聞いた。
浅田は、何言ってんだ、お前、と言う顔をして、
「明日は近藤の誕生日だろーが」
と言った。
はっとして、周りを見渡す。
そこには、「常連」の姿があった。
「つー訳で、何か催し物をしようと、この笠島が提案したわけだ」
有希のほうを見てみると、微笑みながら恥ずかしそうに体を揺らしていた。
「だったらさ、もっと美咲を傷つけない方法があるじゃん、なんか美咲、ちょっと心配気味なんだから」
「ドッキリと思えよ」
こんな陰湿なドッキリならしないほうがいいと思う。
「やろうとしてることはいいんだけどさ」
「まー、でもさ、図書室で騒いじゃいけない、ってことでさ」
「常連」のみんなが目を光らせた。
……嫌な予感しかしない。
「……近藤、連れ出してくんない?」
「え」
「だーから、俺の指定する場所に、なんか、こう、上手い具合に、悟られないように連れ出してくれ、って事」
「……」
無理無理無理無理ぃぃぃ。
どうやって連れ出せというのか。
私は詐欺師じゃないんだから、無理に決まってんでしょ、と思っていると、それが表に出たのか、浅田は自信たっぷりの顔で、言った。
「無理じゃない。やれば出来るよ。絶対に」
ここで言う、『絶対』の価値、どれ位?
そう思う私をよそに、無茶苦茶な事を言うだけ言って、浅田は、
「じゃ、頼んだから」
と、悠々として去っていった。
アノヤロウ、いつか必ず……と怒りに燃えていると、有希が
「じゃあ、本当頑張ってー。私も信じてるからー」
と言って去っていった。
……私に、どうしろと。
変な重圧感に耐えながら、私は図書室に戻っていった。