Neetel Inside ニートノベル
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渡辺の話によると、彼は隣の2-4の生徒で渡辺の中学からの親友で、野球部所属。
名前を喜多 秀俊(きた ひでとし)といった。
典型的な球児で、父親の影響で小学生のころから野球馬鹿だったらしい。
そんな喜多と渡辺がどうやって接点を持ったのかはナゾだが、そんなことは浅田にとって全くもってどうでもいい話なわけで。
「なぁ、喜多君、こいつ見てみろよ、どう思うよ」
すぐに自分の救世主になるであろう目の前の男子に向かって、ある種の希望のまなざしを向けていた。
「すごく……ってか、どうしたんすか、そんなに」と喜多はそのまなざしに答えるでもなく言った。
かくかくしかじか……
「…………。なんか、大変っすね」
そう言ってふいと向きを変えた喜多に、浅田はしがみつく。
「いやいや、そんな事言うなって。何他人事みたいな顔してんだよ」
「モロ他人事だよね。自分で起こした事だよね」
「おま、沢辺まで言うか? じゃあどーすんだよこれ。俺、こんなに食えるわけねーんだよ」
浅田がうなだれる。
それに追い討ちをかけるかのように、喜多も言った。
「つか、もう飽きちゃったし、そんなに沢山食うほど好きでもないんだよね~」
「お前、結構今時っぽいけど、結構ズバズバ物言うんだな」
浅田が横目で喜多を睨んだ。

「ところで、今日の部活はどうしたの?」
渡辺が何を言うでもなく聞いた。
なんとなく、喜多に話すときは、言葉がはきはきしている…気がする。
その渡辺の問いに、喜多は隠すでもなく言った。
「まぁ、今日はサボりっつーかね」
「あーいるいる。サボりがちな野球部。どーせつまんねーとかそう言う理屈だろ?」
先ほどのやり取りで、完全にスネていた浅田が口を開いた。
そしてそれはさらに続いた。
「そーいう奴に限って、やたら言い訳がましくなったりするんだろ。お前はどっかの胡散臭い政治家か、見たいな奴な」
「…………」喜多は突然の言葉の殴打に動揺しているのか、言葉を失っている。
まるで、説教されている時の小学生のようだ。
「それによ、そーいう奴は知らず知らずの内に自分の株下げてることが多いから、あんま女にはモテねーんだよな。お前、今までにバレンタインチョコいくつ貰ったよ」
「もうやめろてやれよ。それに、今の半分以上お前のことだったぞ」
俺は我慢できずに二人の間に割って入った。
喜多はもう、慰めを必要とするような顔だった。
「る、るせーよ。俺だってチョコの一つくらい貰ってんだよ!! ……小学校の頃に」
何の話をしているんだコイツは。
「……自慢になってないんだけど」
「何なんだよ!! じゃあお前は貰ったことあんのか!?」
「一応、部活の人から義理貰ったりするんだけど、それはアリなのか?」
「ま、マジで?」
どうもこれはアリらしい。
それにしても、だ。
不毛だ。
やり取りが不毛すぎる。
しかも、ここは割とでかい本屋の中。
大多数の人が俺たちに向かって視線を向けている。
そのことに気づいた浅田は、小さく咳払いをした後、言った。
「……まぁとにかく、あれだ、そういう時は、部活のこと忘れて息抜きするのがいーんじゃねーの? 俺が色々場所教えてやるから、野球のことは一旦忘れて、遊んだらどうだ?」
「……あ、ありがとな」
先の浅田の暴言がよほど堪えたのか、喜多の顔は暗い。
それなのに、浅田は心無い言葉を浴びせる。
「おい、どーしたそんな浮かねー顔して。俺なんか悪い事言ったか?」
……喜多、もう怒っていいぞ。

       

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