Neetel Inside ニートノベル
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「ようし、今から行くぞう!!」中嶋が意気込む。
「おま、他人の事情に首突っ込むのか!?」
「それ、ちょっとマズいんじゃ、ない!?」
 必死の顔で止めに入る浅田と渡辺だが、それをものともしない中嶋が風のように走り抜けていった。
「さ、さすが陸上部……じゃねぇ、追いかけねぇと」浅田が息を切らして走り出した。
「お、おい、お前まで!!」
 俺も追いかけるが、そうなるとみんなが駆け出す。
「これ、いろいろ面倒なんじゃない?」西野が走りながら言う。
「うるせぇ!! あの馬鹿、なんか余計なことしそうな気がするんだよ!!」浅田がほえる。
「……何も言えないのが辛いな」
走りながら、そんな事を話していたような気がする。
「おぃ、中……嶋……」
 浅田の声がどんどん小さくなっていく。
 見てみると、中嶋が明らかに落ち込んだ顔をして立っている。
「はは、も、もう、部活辞めたって……」
「え」
 ……早ぇ。

「中嶋も中嶋だけど、喜多も喜多だな」浅田が溜め息混じりに言った「あのバカ、思い立ったら止まんねーのな」
「ど、どうするの? 部活辞めちゃったけど、どうすればいいの?」
「黙ってなさい」
 西野が慌てている渡辺を制した。
「まぁ、どうにかして連れ戻すしかねーんじゃねーの?」
 浅田の言葉に、皆が頷いた。

 放課後の図書室には、俺と中嶋、渡辺、浅田が、一つのテーブルを囲んで座っていた。
「じゃ、直人、仕切ってくれ」
 いつものことだが、浅田は面倒臭い事はいつも誰かに押し付ける。
 その言葉に批難の目をむけてから、俺は言った。
「まぁ、何がいい考えが浮かんだら」
「はい先生っ!!」
 ……ノリがどうもおかしいが、俺は中嶋のアイデアに耳を傾ける事にした。
「やっぱり、野球すればいいと思う!!」
「うん、ま、そうなんだけど」
 俺は対応に困った。
「あのな、つまんない、って言ってる奴に、野球やろうぜっても、拒否られんのがオチだろーが」
「じゃあ、どーすんのよ」
 むっとした中嶋の言葉に、浅田が反応した。
「……まぁ、他に才能ないから、それが分かりゃすぐ戻って来んだろ」
 実に消極的だな。
「……でも、そのまま帰宅部になっちゃうかもよ?」
 俺が言うと、浅田がいやな顔をした。
「あ……あの」
「お前は暫く自分の考えをもうちょっと練ってから言え」
「うぅ……」
 渡辺の考えは口に出すことも出来なかった。
「……ただつまんねぇだけなら、サボってりゃいいのに、どうして止めたかが分かんねぇんだよ」
「うーん……いじめとか?」中嶋が言う。
「あいつはそんな目にあう奴じゃない。野球部の奴に聞いてきた」
 浅田が言うんだから間違いない。
「あ…あの」
 渡辺だ。
 図書室がしんと静まり返る。
 いや、普通はそういうものなのだけど。
「やっぱり、スランプ気味なのが……」
「それだ!! いやー、なんで気付かなかったんだ」
 浅田の顔に電気がともった。
「……でも待てよ。スランプで、つまんなくなって、それで退部。面白くねーな……いいか、どうでもいいや。あんな奴」
「……飽きるの早っ」
 中嶋が呆れるが、それに浅田が続けた。
「なんか深刻な理由でもあんなら『助けてやろうかな』って気にもなるけどよ、フツーのありきたりな理由で困ってんなら『勝手にやってろ』って気分になるんだよ」
「そうなのかな……」
「そういうもんなの」
 浅田が言い切った。
「つーことで、もうやめ。じゃな、俺、用事あるから」
 さっさと帰ってしまった。
「……」
「全く、静かにしてって、何度も言ってるんだけどなー」
 園山さんだ。
「優実、あたし今困ってるんだ」
「聞いてたよ、ていうか聞こえてたよ。喜多君でしょ? うちのクラスの」
 そういえばそうだった。同じクラスなら、この人も一緒にやれば良かったかも。
「まぁ、あの人にも飽き性なとこあるから、そんなことだろうって思ってるよ」
「ふーん……そうなのかぁ」
 中嶋も、何とも言えない顔になっている。
「……ま、何か理由があっても、私には分かんないよ。本人に聞いてみれば?……あと、もう閉館だから、早く出てよね」
 そう言って、園山さんは図書室を出て行った。
「さて、あたしも帰ろ」
「どうすんの?」
「何が?」
「喜多君の事」
 中嶋は、何言ってるの、と言う顔をして、言った。
「もちろん、何とかしたい、って思ってるよ」
 そう言って中嶋も出て行った。
「頑張ってね。原因なんて、すぐ分かるものじゃないのよ」
 後ろで、声がした。
 近藤さんだ。
「だけど、浅田君も喜多君も、そんなにさっぱり諦めるような人じゃないと、思うんだけどなぁ」
 そう呟いて、近藤さんも部屋を出ていった。
「……僕、何か出来るかな」
 渡辺が呟いた。
「探せばあるよ」
 俺は言った。

       

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