Neetel Inside ニートノベル
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何某の日常
退屈の理由(後)

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 その次の日。
 この日はロングホームルームがあった。
「さーて、今日のロングホームルームたけど、来週の球技大会で優勝するためのチーム分けを……するぞぉー!!」
 学級委員の中嶋に合わせて、クラス中が「おーっ!」と沸き立った。
 鳴海先生が黒板に競技名を書き付けた。
 サッカー、男女バスケットボール、男女バレーボール、卓球、ソフトテニス、そして野球。
 黒板に全ての競技名が書かれた時、鳴海先生はこちらに振り替えって言った。
「各自自信のあるところに自分の名前を書くよーに」
「おい、沢辺はどうすんだ」
「俺か……そうだな」
 俺は中学生の時、卓球部に所属していた。
 それを考えると、卓球が妥当だろう、と考えた。
「やっぱり、たっ」
「野球だよな」
「な!?」
 俺は驚いて、思わず浅田の顔を凝視した。
 浅田はもう一度言った。
「野球だよ、野球」
「何で……」
 言いかけて、あるものが引っ掛かった。
 まさか……。
「何だと思ってんだよ。俺、この為にバッティングセンターに通ってたんだぞ」
「……」
 当然のように言う浅田を見ながら、俺は呆れていた。
「私も野球にする」
 後ろから西野の声がした。
「おお、西野嬢がいてくれたら、百人力だな」
「誰が西野嬢よ」
 そんなやり取りをしていると、渡辺がゆっくりとやって来た。
「ぼ、僕も……やろう……かな」
 そう言う渡辺の視界に、西野が映る。
「あ……う」
「ハッキリしなさいよ」
「う、ん」
 西野が苛立ちを露にした。
「うん、じゃなくて、やるの、やらないの!?」
「……」
 西野の肩が震え始めた。
「……」
 西野が拳を握りしめた。
「ひっ」
 渡辺が短い悲鳴を上げるや否や、西野の中で、何かが切れた。
 と思った瞬間、鉄拳が渡辺を直撃。
 渡辺の小さな体が10センチほど浮き、近くの机を巻き添えに、ぶっ飛んだ。
 そのまま、床に倒れて、渡辺は動かなくなった。
 ふぅ、と一息吐いた西野は、中嶋の方に歩いていった。
「優、渡辺も野球に入れといて」
「りょーかいっ。あたしもやるっ」
 中嶋が言った。

「よっしゃ、絶対優勝するぞ!!」
 特訓が始まった。

 学校の裏の車のない駐車場が、特訓の舞台だった。
「浅田ー、行くよーっ」
「よっしゃ来いぃ!!」
 浅田は身構える。
「おりゃーっ、レーザービームっ!!」
 中嶋はそう言って振りかぶるが、次の瞬間、本当に豪速球が飛んで来た。
「……!?」
 モロに顔面に命中。
 そして、浅田の顔に当たったボールは高く宙を舞い、渡辺の頭上に。
「渡辺、フライ来たよ!!」
「あ……わわ……」
 慌てて渡辺はグローブを構えるが、ボールの軌道はグローブを外し、そのまま地面に。
 そして、弾んだボールは見事に渡辺の下顎を突き上げた。
 渡辺、ダウン。
「……何なんだ、今の」
 低く弾んだ球をとった俺は、中嶋の「送球!!」の声に反応し、急いで中嶋に向かってボールを投げた。
 が、ボールが手に引っ掛かり、大きく逸れたボールは西野の方に。
「……あ」
 俺は小さく声を漏らした。
 ……パンッ
 時が止まった感覚がした。
 ボールは、西野のグローブの中にあった。
「……」
 あ、危なかった……と胸を撫で下ろしていると、いきなり西野が振りかぶり、
「このノーコンがぁ――っ!!」
と俺目掛けて物凄い勢いで球を投げてきた。
 ……が。
 その時、間の悪いことに、俺と西野の直線上で倒れていた渡辺が起き上がったのだ。
「……ひぐぉっ!!」
 渡辺の顔面に直撃した。
 ドサリ、と重たい音がした。
「……あらー、保健室行かないと」と中嶋。
「大丈夫か!?」
 俺は渡辺に駆け寄り、助け起こそうとしたが、顔に触れた瞬間、両方の鼻から鼻血が出ているのに気付き、手を止めた。
「……な、何よ」
「あの時、ボール投げたの西野だよな」
 俺の発言に、西野はむっとなった。
「だからって……私はただ、沢辺に返しただけよ? ノーコンの沢辺が悪いんじゃない」
「でも、あんなに強く」
 次の瞬間、俺は宙に浮いた。
 足が地面に付かない。
 ……怖い。
 俺は、西野に胸ぐらを掴まれていた。
「ごちゃごちゃ言わないで、さっさと行け」
「……ハイ」
 俺は、西野の圧倒的な迫力に押されて、拒否することができなかった。

       

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