Neetel Inside ニートノベル
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 翌日。
「渡辺、来ねーな」
 渡辺はどういう訳か、風邪をこじらせていた。
 そこに、その日のホームルームのあと、鳴海先生がこんな事を言ったのだ。
「お前ら、渡辺と仲良いよな」
「だったら?」
 てっきりいじめか何かだと思って身構えていたら、その予想を見事に裏切る言葉が返ってきた。
「この絵、結構邪魔なんだよね、いきなり倒れて来たりしてさ。だから……誰か、これ渡辺ん所まで持ってってくんない?」
「……!?」
 瞬間、ホームルーム後の解放感が一気に殺伐としたムードに飲み込まれた。
「……」
 4人は暫く静かだった。
 やがて、浅田がもごもご言い出した。
「おい……渡辺って、誰だっけ」
「あぁ……誰の事かな」
「し、知らない人だよねー」
「えぇ、まったく、人違いも良いとこよね」
「……」
「……」
「いや、誰かやるって言おうぜ」
「あの絵をか……」
「そんな事言われても、ね」
「やっぱり、無理よね」
「……」
「そうだ、そう言えば、直人、お前、呪いとか信じねぇって言ってなかったっけ?」
「え? そんなの、いつの話だよ……浅田こそ、今日は星座占い1位だってはしゃいでたろ。運が良かったらいくらかマシなんじゃないか?」
「んな訳ねーだろ。運勢持ってかれるっての……」
 そして、浅田は周りを見回す。
 そして、西野と目があった。
「な、何よ」
「……西野、お前確か渡辺と同じマンションに住んでたよな」
 びくっと西野の体が震えた。
「え、そーなの!?」
「い、いや」
 西野が狼狽える。
 次の瞬間、中嶋と浅田がニヤニヤし出した。
「うん、そう言うことなら!」
「こいつ以外に適任者はいないな!」
「……え?」
「じゃ、よろしくねー!」
「頼んだぞ、西野嬢!!」
「え、待っ……ちょっと!!」
 西野が止めるより早く、中嶋と浅田は教室から出ていった。
 教室が静かになった。
「……じゃ、俺も」
「待ちなさい」
 西野が俺の肩を掴んだ。
「……え?」

「……ほら、駅に着いたんだから、さっさと出なさい!」
 ここは備布(びっぷ)。
 行ったことのない場所に連れていかれ、勝手がわからずキョロキョロしている俺の手を、西野がぎゅっと掴んだ。そのまま引っ張られ、改札を抜け、いつの間にか出口に立っていた。
「ったく、恥ずかしいんだから……」
「……あの、言っちゃっていい、ですか?」
 しどろもどろに話すと、西野が俺を睨んだ。その睨みに堪えかねて、自然と敬語が口を突いて出てきた。
「何よ?」
 怯んで一瞬躊躇ったが、思いきって俺は言った。
「なんで俺を連れてきたんだ?」
「…………」
 嫌な沈黙だ。
「なんでって……そんな事どうだっていいでしょ?」
「……じゃあ、なんで俺がこの絵を持ってるんだ?」
 なぜか渡辺の絵は紙袋に入れられた状態で俺が持っていた。というか、持たされていた。それを指摘すると、西野の顔が一気に「うっ」という言葉を体現した様な、ばつの悪そうな顔になった。
「う……うるさいわね。そんなの、どうだって……」
「いや、俺の生死に関わるから。もしかしたら俺がヤバイから」
 俺は自分に訪れるかもしれない災厄を防ごうと必死だった。一方の西野は降り掛かる火の粉を避けるのに必死だった。
「旅は道連れって、言うじゃない?」
「いや、道連れの意味が違うと思う」
 う、と短く唸った西野は観念したように言った。
「……じゃあ、ジャンケンで決めましょ。これなら文句ないでしょ?」


「…………」
 状況は微塵も変わらなかった。俺は、ジャンケンにストレートで負けたのだった。
「文句は言わないでよね……ジャンケンで決めたことなんだから」
 あまりにあっさりと負けてしまい、腑に落ちない。文句を言いたいのをどうにか堪えてキャンバスを抱えた。
「大丈夫よ。見なければどうってことないんじゃない?」
 西野はそう言っているが、俺はその抱えている絵に、物凄い不吉な予兆を感じていた。そして、その予兆を裏切らない事が起こった。
 

       

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