Neetel Inside 文芸新都
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本当に可愛いひと
3話

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 「じゃーまたな」
 「おう」
 僕らは教室の前で別れた。僕は2-3で、楠山は2-4だ。長いこと通ってる学校は同じだが、クラスは違うことが多い。当然と言えば当然だが。
 
 僕はふみ子さんの言った言葉について考え、昼休みまでどこか上の空のまま授業を受けた。

 四時間目終了のチャイムが鳴り、学校は昼休みとなった。
 僕は誰よりも速く廊下に出て、自動販売機に向かった。昼時の自動販売機付近は戦場である。もたもたしていれば目当てのジュースは売り切れ、弁当を牛乳で食うことになってしまう。何故か日本では小学校の給食から白米と牛乳を合わせて食べさせたがるが、あれは大きな間違いである。パンと牛乳なら文句はないが、白米は駄目だ。この国に牛乳嫌いな子供が多い理由はここに起因すると僕は勝手に思っている。
 
 廊下に群れる奴らを巧みにかわしながら、僕は2-3から最も近い職員室前の自販機を目指した。この学校にはもう一つ、体育館の前に自販機があるが、あそこは遠い上に僕好みの物が無いので論外だ。
 
 無事に一番乗りできたと思いきや、自販機の前には一人の男がいた。
 「よう北原。相変わらずはえーな」
 「なんだお前か。昼登校とは相変わらず不良だな」
 僕より早く自販機の前に来ていたこの男は、芥川安吾(あくたがわ あんご)という。こいつは一言でいえば不良である。毎朝甘酒をかっくらってから学校に来るというのは有名な話であるし、万引き犯と間違えられて捕まったのも一度や二度ではない。
 「だから俺は不良でもなんでもねーっつうの!お前くらいだぞ、そんなこと言っているの。今日だって病院行ってから学校来たんだよ」
 「お前が不良じゃなければ、この世に不良はいないことになる」
 「んな訳ねえだろ!」
 やはりこいつをからかうのは面白い。実際のところただ運が悪くて甘酒が好きなだけの好青年であるが、いちいち良い反応をするのでつい遊んでしまう。
 
 「そういえばお前、相方はどうした?」
 「知らん。そのうち来るだろう」
 突っ立っている芥川を押しのけ、僕は自販機に100円玉を投入した。目当ての商品は梅味のソフトドリンク「梅青し」。未だに100円で缶ジュースを買えるというのは、この学校の数少ない良いところだ。
 
 「またそれか」
 後ろから声がして、僕は振り返った。
 「なんだ楠山か。どうせお前もいつもと同じコーヒーなんだろ」
 「まあな」
 
 楠山がコーヒーを買うと、自販機の前には人が集まりだした。混む前に買えてよかった。

     

 飲み物を買い終えた僕らは、2-3の教室で昼食を食べ始めた。
 「うむ、やはり彼女の作った弁当は美味い」
 楠山は満足げな顔で弁当をむさぼり食う。
 「そんなことより、僕は今後どうしたらいいんだ?」
 「どうもこうも、ふみ子さんに会えばいいじゃないか」
 「いいのか?」
 「会って悪いことはないだろう。なんなら今日の帰りに家まで行って来い。幸い彼女は学校に行ってないから1年のうち360日は暇だ」
 大体予想はしていたことだが、やはり彼女は不登校らしい。まああの恰好で学校に行っても色々大変だろうが。
 「……アポを取っておいてもらえるか?」
 「ちょっと待ってろ」
 そう言うと楠山は電話を取り出し、ごちょごちょといじり始めた。
 「オッケーだってさ」
 「早!」
 
 こうして僕は放課後、ふみ子さんの自宅へ行くことになった。楠山は忙しいとのことなので、一人で。
 
 六時間目が終わり、掃除を終えた僕らは担任のありがたい話を聞いて放課となった。部活に行く者、アルバイトに行く者、友達と遊ぶ者、家に帰る者。人それぞれ、放課後には色々なことがある。しかし一度しか会ったことのない女性の家に一人で行こうとしているのは、僕くらいではないだろうか?

 いつもは下りの電車に乗って颯爽と帰宅をする僕だが、今日は駅で上り方面の電車を待っていた。
 彼女の家はこの辺りでは一番栄えている駅の周辺にあるらしい。なんでも現在は一人でアパートを借りて住んでいるとのこと。親御さんと色々揉めたのだろうか。余計なことを勘ぐってしまう。
 
 あと少しで電車が来る、という時に一人の女子生徒がホームに入ってきた。
 江国春葉(えくに はるは)。同じクラスの生徒だ。
 江国は僕に気付くと、近寄ってきた。
 
 「なんで北原が上り方面を向いてるの?あんたんち下りの糞田舎じゃん」
 「余計な御世話だ。今日はこっちに用事があるんだよ。お前こそ部活はどうした?」
 僕の問いに江国はぎこちない作り笑顔で答えた。
 「今日は休み。なんか調子悪くてさ」
 珍しいこともあるもんだ。いつもは沸騰したヤカン並みにやかましい江国が体調不良とは。
 「ねえねえ、用事ってなんなの?」
 「お前にゃ関係ない」
 「意地悪。そんなんだから彼女ができないんだよ」
 「そういうことは自分が彼氏を作ってから言え」
 僕らがいがみ合っていると、電車が来た。
 
 「じゃあな」
 江国を振り切り電車に乗ろうとすると、予想外のことが起きた。
 「あたしも行く」
 「は?」
 言うが早いか、江国は僕と一緒に電車に乗ってしまった。
 「何してんだよ!お前んちは下りの糞田舎だろ!」
 「あたしも用があんのよ」
 
 結局江国は僕と同じ駅で降りた。どういうつもりなんだ、こいつは。

       

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