へーちょの伊豆大島行

 叔父の葬儀のために家族で伊豆大島へ――。
 朝の熱海の船着場の突端に立つと、潮のにおい強く、海の実感高まる。
 船出なんだな、などと無意味感傷。
 天気は快晴、波あくまでおだやか。風も少なく、絶好の船出日和だろう。
 船に乗り込みしばらくすると、ワープでもしそうなとんでもないキーン音、響く。どうやらこの船、ジェット船と言うらしい。
 今にもテイク・オフしそうなもの凄い音をブン撒いて、大島さして船進む。
 39ktは流石に速く、窓から見下ろす大海原が高速道路にも見える。速いことは、いいことさ。
 初島、あっという間に後ろへ過ぎ去っていく。振り返ると幼少期に一度だけ泊まったホテルが見える。かつては新築だったホテルも、わたしと同じくらい古くなっていた。
 それにしても船内にいても、海の上っていうのは、少し寒い。何とはなしにエチケット袋、開ける。手にぶにゅっとしたものが触れる。わっ、汚ねっ、ガムだ!
 ちょっとブルー。
 十時五分、大島、着く。
 岡田港。はるか昔に訪れたときよりキレイになっている、と思ったら以前来たのと違う港だった。
 島の空は、煙るようなうす雲に半分覆われながらも、あくまで青い。
 ちょっと、酔った。


 親戚のお家にご挨拶。
 異常にたくさんかしわもちを出される。島の特産の明日葉を使っているらしく、ほんのりした苦味があんこの甘さとよく合う。五つ食べる。腹、埋まる。
 親戚の家を辞去し、ゴハンを食べに一家揃って海へ向かう。
 道中、町並み観察。大島にはウッドデッキがついている家がやたらに多い。しかし、こんな離島にもフレッツ光が来ているのには、少し意外。在宅勤務をするにはいいとこかもしれない。風光明媚でのんびりしているし。いつか、住んでみたいかもしれない。いやでもやっぱりこういうところは、住んでみると不便で大変かもしれない。本屋さんも見当たらないし、アマゾンだって離島へ送るには時間がかかる。住んでみたいな、と思い続けている間が幸せかもしれない。恋愛とおんなじ。
 大島港。こっちがはるか昔に訪れた港だ。しかし、やはり立派になっている。離島とはいえ、大島ほどの規模があると、開発されて変わっていくんだな。
 「おともだち」なる店でゴハンを食べる。けーんーじくーん。(C)浦沢直樹。
 オススメだというべっこう丼を食べる。鯛の切り身が醤油につけてあって、それがべっこう色。コリコリした歯ごたえ。全体的には醤油味ながら、どこかに鯛の甘味もあって、ゴハンに良く合う。
 これはいいや、と勢い込んで食べてたら、妙な歯ざわりの噛み切れない何かが。うろこだ。これも、新鮮だからってこと? まあいいや。島の人は大らか、わたしもしばし、島の人。
 それから歩いて寺まで行って、どこかで木を切るチェーンソーの鳴り響く中で、しめやかに、葬儀、告別式、開始。
 寂滅を持って楽と為す。
 終了。
 お坊さんが出て行った後、お父さんぽつりと、
「マイク、使うんだな」
 最近ではお寺さんにもIT革命。


 お骨を先頭に、行列組んでお墓へ向かう。長い坂道、強い日差し、馬頭観音、潮風、戦没者慰霊碑、到着。
 読経の中で、お線香をあげる。煙は高く昇ってく。どこまでも、どこまでへでも。
 帰りの船まであまり時間はない。もうじき大島ともお別れ。
 親戚の知り合いの店で、銘菓「牛乳せんべい」を買う。甘くておいしいんですよ、これ。本当に。
 お店の人には値引きしてもらった上にお茶まで出していただき、島での最後の優しさに触れる。ありがとう、川崎商店のおばちゃん(宣伝)。
 港から振り返れば、岸壁の山容。ふもとの鳥居の両脇に、驚くほど巨大な松の木。比べる建物のないところに生えている大木ってのは、本当に大きく見える。
 船へ乗り込む桟橋で、外国人が何やら係員と揉めている。通路をふさいでいて、乗り込めない。
「荷物持って入るならタダと言ってマシタ!」
「ですから、その話はこっちで聞きますから、ちょっとそこどいて下さい」
「ナゼルール変わる!? 触らないで下サイ!」
 話、通じてない。ちょっといらいら。
 五分遅れでようやく船に乗り込む。窓から桟橋の様子を見ていると、どうやら解決がついたようで、外国人が乗り込んできた。
 途端に周りの客達、
「えっ、乗せちゃうの!?」
「いいの!?」
 船内、一時騒然。
 エンジン音が高まっていく。相変わらずワープでもしそうな轟音。
 出航。
 ジェット船は、速い。大島は見る見る小さくなっていく。でも今はまだ、振り向けば大島。だけど直に、見えなくなる。
sage