Neetel Inside 文芸新都
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二宮社長
「二宮社長宇宙に行く」

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 二宮社長は会議の席上でイラついていた。というのも部下がろくな意見を言わないからである。
 議題は在庫のボールペンをどうするかというものだった。今、二宮ボールペンは八千万本の未曾有の在庫を抱えているのだ。ちなみにこれは半年の売上量とほぼ同じだ。
 しかし部下が言うことは
「途上国の子供に無償で送ったらどうでしょうか」
「さらに値下げしたらどうでしょうか」
 などのつまらない意見ばかり。挙句の果てには
「燃やしたらどうでしょうか」
 というふざけた意見まで出てきた。社長は癇癪を起こして会議室の大きな机を叩きつけた。皆の視線が集まる。皆戦々恐々としている。なにしろこの社長の言う事と言ったらとんでもないのだ。社長は大声を張り上げた。
「お前たちはろくなことを考えない。もっと想像力を働かせろ!」
 常務が恐る恐る尋ねた。
「というと」
 社長は立ち上がり窓に向かいながらつぶやいた。
「そうだな…」
 何も考えていなかった社長に窓の外のあるものが目に入った。
 
 翌日、広場で飛行船が作られ始めていた。ボールペン飛行船だ。
 社長が前日、飛行船を作れと言った時、皆が反対した。しかし社長は独断でその決定を下した。
 飛行船はボールペンで作られているが機密性は完璧だ。ボールペンをおよそ七百万本使った。社長は数日後に完成した飛行船を見ながら言った。
「最新科学の勝利だな」

 社長が乗り込んだ飛行船は宙に浮き出した。社長はやがて飛行船の下に括りつけておいたボールペンを切り離し始めた。
 ボールペンは地上に向かって落ち始めた。社長は愉快そうに言った。
「うん。これで大宣伝だ」
 が、しかし文句が出始めた。ボールペンが頭にぶつかってケガをする人が出たのだ。裁判まで起こされてしまった。
 
 社長はまた思案をしなければならなかった。こんどは時間がかかった。一週間後社長は驚愕の発表をした。
 なんと社長はボールペンロケットを作るというのだ。そして月に行くというのだ。あまりにも馬鹿げていると皆が言ったが、そこは社長の権限でごり押しした。
 予算にも余裕がないので北朝鮮のテポドンを改良したボールペンロケットにした。社長は言った。
「まさおも喜んでたぞ。がっぽり金が儲かって」
 飛行士も安上がりの旧ソ連の人間にした。ウオッカを飲み過ぎて少しおかしくなってるが、まあしょうがない。
 この計画に全財産を二宮ボールペンは費やした。全ての資産を担保に入れ銀行から金を借りた。だが、しかし打ち上げにはまだ金が足りなかった。
 しょうがなく残りの在庫ボールペン全てを同業他社に一円で売り払った。これでなんとかなる。
 
 ロケットは無事完成した。数日後種子島宇宙センターからロケットは無事に打ち上げられた。
 そして案外簡単に月へと到着した。
 月へ降りた社長は満足げに紙を取り出し、

このボールペンは二宮ボールペン。ボールペンは月まで行ける。
 と書いた。
 その模様は宇宙飛行士が撮影していた。その生映像が流れた瞬間から二宮ボールペン本社には注文が殺到し始めた。が、しかし残念ながら在庫はもはやなかった。
 なぜなら飛行船を作ったり、一円で売り払ったり、宇宙船を作ったりして在庫のボールペンはすべて使ってしまったのだ。
 しかし二宮ボールペンは市場に出続けた。何故ならボールペンがあったからだ。そうだ。ライバル会社が買取ったボールペンを売りまくったのだ。
 二宮社長は歯ぎしりしながら言った。
「なんてことだ。原価は一円なのにあいつらはそれを数十円で問屋に売っている」

 そんな二宮社長のところに真面目社長がやって来た。社長はイラつきながら言う。
「何のようだ」
 真面目社長はメガネの位置を直しながら言った。
「全く、あなたは宇宙に行ったりして遊んでいるからこういうことになるんです。これで懲りたでしょう。真面目にボールペンを作りなさい」
 だまって話を聞いていた、二宮社長は愉快そうに言った。
「お前は勘違いをしているな。確かにボールペンでは儲けられなかった。が、別の儲け話があるのだよ」
 真面目社長は訝しながら聞いた。
「何ですか。それは一体」
 社長はポケットから石を取り出し言った。
「これは月の石のかけらだよ。これより大きな石を持ち帰っておいたのだ。展示すれば儲かるだろう」
 その言葉通り、二宮ボールペンは大儲けした。ボールペン一億本の儲けになった。

       

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