Neetel Inside 文芸新都
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フロッピー・パーソナリティー
高瀬直太編 第9話「視線」

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  日曜日

 それからろくに眠れないまま夜明けを迎えた。
 一階に降りてみると、昨日と同じく利一が朝食を用意していた。奴の笑顔は相変わらず、反吐が出るほど爽やかだ。エプロン姿が妙に似合うのも腹が立つ。まさかこいつ、妹の下着を洗って干してたりとかしていないだろうな? もしそうだったら、本気で気持ち悪いぞ。
 俺はとりあえず冷蔵庫から取り出した牛乳で喉を潤しただけで食卓から離れる。
「保世、食べないのかい?」
「……食べたく、ない」
 俺は振り向かずに答えた。腹は減っているが食べたくない、と言うのが本音だ。どんなに美味そうでも利一の手料理かと思うと、食欲が失せる。まさか奴が俺に、というよりは小向に危害を加えるなんてことは万に一つも無いだろうが、これは理屈ではない。もはや生理的な拒絶に近かった。
「でも、食べないと身体に悪いよ」
「いらない」
 俺は、おそらく本気で心配してくれているであろう利一に突き放した一言を放ち、階段を踏み鳴らして部屋に戻った。後ろからまた何か言ってくるが、そんなものは無視だ。くそ、これじゃあまるで反抗期の娘そのものじゃないか。何だって俺がこんな乙女行動をせねばならんのだ?


 さりとて、外に出たところで行く当ても無し。人のいない公園でブランコに腰かけて空を眺める。手の平に移った鎖の鉄錆び臭が昨夜の出来事をフラッシュバックさせた。
 俺を襲ってきた男。そして利一に半殺しにされた男。……あの男、大丈夫かな? まさか死んでないよな? 被害者が加害者の身を案じるなんて普通はあり得ないだろ。でも利一が絡むとそれが現実に起こるんだ。本当に、あそこで高瀬直太が通りかからなかったらあの男はどうなっていたか。さらに、七後が来なかったら高瀬直太はどうなっていたか。
 ……七後? そうだ、七後に話を聞いてみよう。昨日の事後処理はあいつに任せたんだった。高瀬直太も関わっただろうが、どちらかと言えば頼りになるのは七後だ。こんなときに限って自分を頼れないとは、我ながら情けない。
 何故だろう。さっきからずっと胸がズキズキ痛い。とにかく震える指で携帯のボタンを押した。


 小向邸近くの公園で待っているから来てほしいと、電話越しに二言三言を伝えただけで七後はすぐに駆けつけてくれた。昨日はてんやわんやで気付かなかったが、七後は背が低い割に、私服のパンツルックが様になっているな。
 そして現れた七後はバイクを押して公園に入るなり、深い植え込みの中にバキバキと押し込んで隠した。……ダメだろそれ、とは言わないでおこう。
「どうせ私はまだ法律上二人乗りが出来ないし、あれには人が乗る後部座席も無いから、邪魔になるだけ。今まで第三者に露見したことはない。保世、調子はどう?」
 俺の怪訝そうな表情を読んだのか、七後は勝手に言い訳を始めた。さらっと心配もされたので俺は笑って返す。七後は安心したのか、隣のブランコに座った。俺の小向っぷりも板に付いてきたかな。
 しばしお互いに無言。……そうだった。七後は積極的には詮索してこないんだったな。しかし俺の方としても知りたいことが多過ぎて、いざとなると一体全体どこから聞いたものやら。
「わざわざ呼び出したくらいだから、何か私に用件があるのだとは思うけど……」
 すると七後はそろりと立ち上がり、頭を抱えている俺の前に歩いてきた。
「それが急を要するものでなければ、遊びながらでも構わない? 今日はせっかくの休日」
 本当にこいつが遊びたいだけなのか、それとも俺を気遣ってくれたのか、とにかく俺は誘いに乗ることにした。
「どこへ行く? 保世が決めていい」
 そう言われても、俺には女二人での時間の過ごし方など分からない。
「え……ゆ、由花ちゃんに、任せるよ」
「……雑居ビルの一角で、歴戦の猛者と碁を打つことに楽しみを見出せるのならそれでもいいけど」
「で、デパートの、冷やかしでも、しよっか」
 もうどうにでもなれ。俺も男だ。ここは覚悟を決めて女らしく、きゃぴきゃぴはしゃいでやろうじゃないか。


 普段の俺ならまず入らないような店を上から下へ回り、美人の店員から「よくお似合いですよ」と世辞を言われて値段高めの服を勧められたり、普通なら学生の身分では買えないはずのブランド物の鞄が格安で売られていることに疑問を感じたりしながら時間を潰す。……どうも最近の俺、時間を潰すっていうフレーズを多用している気がする。気のせいか? どうでもいいか。
 パーティーグッズの売り場では、マジック用品の実演販売が行われていた。一通り終わったところで七後が教えてくれたことによると、そこで紹介されていた物のいくつかは、七後の爺さんが仕掛けを考えたのだそうだ。……お前の爺さんって、飴を作ってる人じゃなかったっけ?
 さて、朝飯を抜いた俺の腹が鳴ったところで、近場のファミレスに移動。窓際の席に案内される。注文を終えたら暇になった。……いやいや、暇ではない。俺は七後から話を聞きたくて呼んだんだ。この機会を逃してどうする。
「き、昨日は、ありがと。あ、あれから、どうなったの?」
 俺の方からこの質問をしたのが意外だったのか、七後は目蓋を少しだけ開けてしばし俺を見据えた。
「……気に病む必要は無い。あの男は連続婦女暴行容疑で指名手配されていた。自業自得」
「えっと……。その人、ま、まだ、生きてる?」
 この確認の意図をどう読み取ったのだろう。さっきよりも長い沈黙の後で、七後は普段通り簡潔に話した。
「警察よりも先に救急車を呼んでおいた。医療ミスでも起こらない限り存命。今頃は病室で取り調べを受けていると思う」
 とりあえず、よかった。これからちょくちょく顔を合わせるであろう利一が殺人犯にでもなったら嫌過ぎる。
「それと、高瀬の怪我もついで診てもらった。こちらは大した傷ではなく、失明等の危険性は無いとのこと」
 安心すると同時に胸が痛んだ。七後はあの男について自業自得と言ったが、高瀬直太は違う。自分から面倒事に首を突っ込んで怪我をしたのだから自業自得という言い方も出来るだろうが、そうではない。そもそも俺が気を付けていれば男に狙われることもなかっただろうから、助けに入った高瀬直太に利一の攻撃性が向けられることもなかったはずだ。高瀬直太にも何かあったら、俺にもいくらかの責がある。
 ……あれ? ここでふと新たな疑問が浮かんだ。
「でも、どうして高瀬、くんは、あそこにいたのかな?」
 普段の俺だったら歩き回る時間でも場所でもなかったはずだ。利一はともかく、高瀬直太があのタイミングで駆けつけたことには不自然さを覚える。
「そこについては私も確認していなかった」
 後で本人に聞くほかないようだな。俺と高瀬直太、本来同じ人格だったはずなのに、記憶の隔たりが生まれつつある。自分の行動を推測出来ないとはどうにも不思議な感覚だ。
 それはさておき、せっかくだからさらに、利一についての情報も集めておこうかな。顔見知りのようだし、こいつが利一のことをどう思っているかを聞くだけでも客観的な評価が得られる。
「あれ? こないだの子じゃん?」
「これってマジ運命じゃね?」
 俺が質問をしようとした絶妙のタイミングに割り込んで、横から声がかけられた。振り向くと通路には、嫌な意味で見覚えのある姿があった。二日前、俺をナンパしてきた頭の悪そうな二人組だ。
「丁度いいじゃん。2-2だし、これから遊び行こうよ」
 一昨日と違って七後がいることに気付いた二人組はすかさず誘いをかけてきた。こいつら、諦め悪いな。
「こ、困り、ます」
 俺は無駄とは知りつつも、やんわりと断った。七後の前で俺の素を見せるわけにはいかないし、どうしたものか。
「いいじゃん、今日はマジ日曜だし」
 案の定、相手はしつこく食い下がる。日曜だからどうしたと言うのだ。店員さんでも呼んで追い払ってもらおうか?
「ならば賭けをしよう」
 俺と二人組による噛み合わない会話の応酬が三分ほど続いた辺りで、それまで何を話しかけられても無視を決め込んでいた七後がようやく口を開いた。……賭け?
「ど、どうする、の?」
 不審がる俺に七後は不適な笑みを浮かべ、テーブルの端に手を伸ばす。そして二人組に向かって、これからの説明を淡々と始めた。
「簡単なゲーム。ここに十三本のスティックシュガーがある。お互いが順番に一~三本、任意の本数を取っていく。最後の十三本目を取った方の負け。ルールは理解した?」
 七後の確認に、二人組は若干の間を空けてから頷いた。
「私と、そちら二人のどちらかが勝負。私が勝ったらそちらは大人しく引き下がる。そちらが勝ったら私たちはそちらに付き合う」
 負けたら付き合うって、本当の賭けじゃないか! 冗談じゃねえ!
「ちょ、な、」
「いいの? 言っとくけどオレ、マジ得意だかんね!」
 俺の制止の言葉が届く前に、頭の悪そうな男はすっかり乗り気になっていた。七後も俺の危惧するところを分かっているはずなのに、無視して事を進めやがる。
「そちらの先攻でいい。どうぞ」
 促された男は「こういうのは最初は少ないのがいいんだぜ」としたり顔で言いながら一本だけ取った。すると七後はすかさず三本を取る。次に男は二本。対する七後は唇に手を当てて考える仕草をしてから二本を取った。この段階でテーブルの上にあるスティックシュガーはあと五本。男が三本を取って、残り二本のうち一本だけを七後が取った。これで男が十三本目を取ることを余儀なくされたわけだから……。
「私の勝ち。あなたの負け」
「ちょっと待て、もう一回。今度はオレね」
 余裕ある声で勝利宣言をした七後に、もう片方の男が泣きの一回を申し入れた。七後が渋々承諾して仕切り直すと、男は最初に三本を取る。続く七後は一本。そして流れるようにゲームは進み、また七後が最後の一本を残すように取って勝利した。
 それでも諦めようとしない二人組を七後は「約束は約束。これ以上付きまとうなら一一〇番」の一点主張で追い返し、ようやく静かになった。これで俺にも安堵が訪れる。
「よ、よかった。負けてたら、どうなってたか……」
「保世の心配は杞憂。あれはそもそも賭けとして成立し得ないものだから」
 胸を撫で下ろす俺に対して七後は、スティックシュガーを片付けながら当然のように言い放った。
「ど、どういう、こと?」
「あれはルール上、必ず私が勝つようになっている」
「そ、そんなことって、あ、あるの? それに、と、途中で、悩んでなかった?」
「あれは演技」
 しれっと言われた。底の知れない女だ。まあ、こうして小向の振りを続けている俺が言うことではないか。
 気を取り直し、運ばれてきたハンバーグにナイフを入れる。
「……あれ? これ、変な味しない?」
 七後にだけ聞こえるように小声で言った。本来ならば溢れる肉汁に舌鼓を打つところだが、嫌な雑味だけが口に広がっている。七後は黙ってフォークで肉を一かけら切り、丹念に咀嚼した。
「私は、美味しいと思う。傷んではいないし、調理も充分。味付けは好みの問題として、特に減点するべきところが無い」
 そういうものか? 俺の舌が変なのかな? 前にハンバーガーは普通に食べられたから、小向が肉アレルギーなんてことではないと思うが。
 試しに、七後が差し出してきたシーフードパスタを一口貰う。……何故だろう。これも妙に不快な味だ。腹は減っているのに、食欲が湧かない。
「ところで保世。さっきの二人組には、以前にも声をかけられたことはある?」
「うん。ふ、二日前にも、ね」
「だからこの前、メガネが無くても平気かと聞いたのに」
 七後はフォークでパスタをくるくると絡めて口に入れた。……あまりに自然な流れで呟かれたから一瞬聞き流しそうになったが、ちょっと待て。俺がナンパされるのと、伊達メガネをかけていないことに何の関係があるんだ?
 ふと窓の外に目をやると、通行人の一人と目が合った。若い男だ。もちろん互いに見知らぬ赤の他人。しかし相手は俺の顔を見るなり驚いた様子で、歩く速さを落としてから名残惜しそうに去っていった。……何なんだ? 首を戻した視界の端では、離れた席にいる別の男たちがこちらに視線を送っているのが見えた。それ以外にも、どうにも通路を行き来している店員がちらちらと俺を見ながら通り過ぎていくような気がする。一体どうしたんだ? さっきの頭の悪そうな二人組のせいで変に目立ったか? それとも……。
「わ、わたしって、だ、誰かに、似てるのかな?」
 俺はあまりアイドルとかには詳しくない。ひょっとしたらそういうことがあるかもと七後に確認を求めた。しかし首を軽く横に振られる。
「よくは知らない。私は芸能界には興味が希薄」
 それもそうか。こいつが芸能人の情報を沢山持っていたらそっちの方が嫌だな。勝手なイメージだが、七後が芸能ゴシップをチェックしている姿が思い浮かばない。
「でも少なくとも、保世に向けられている視線の原因はそれではない」
 七後はこれまたさらっと断言した。間違いない。確実に七後はさっきの発言も合わせて、小向に関する、俺の知らない重要情報について触れている。しかもこいつは俺が他人から見られていることに、俺より先に気付いていた? 聞き逃すな。食らいつけ。
「じゃあ、なんで、じろじろ見られるんだろ? か、顔に、何か、付いてるかな?」
 俺はわざとありきたりな台詞でぼかしながら、七後に意見を求めた。この問いでどれだけ核心を突いた答えが返ってくるかは分からないが。
「……まさか保世、今更だけど、気付いていない?」
「な、何が?」
「ならばこのまま保世を無防備な状態にし続けるのも好ましくないだろうから、私の見解を述べておく」
 七後は一度小さなため息を吐き、フォークを置いてから続けた。
「一般的に男性は女性の、女性は男性の目を惹くことに意識を傾けるものだし、そういう意味では私がとやかく言うものではないのかもしれない。だから保世が自分の容姿や言動を自覚し、かつその上で行動するのであれば私も何も言わない。天より与えられた魅力を存分に披露するも自由。敢えてひけらかさずに過ごすのも自由。だけどともかく無知と無邪気は別物。昨日の一件もあることだから、この際はっきりと言う。メガネを外しているときの保世の顔立ちは、世の平均的な日本人男性の求める最大公約数的な魅力を具えており、学校でも密かに人気はある。加えて、常に潤みがちでつぶらな瞳の与える印象は、」
「ちょ、ちょっと待って。えっと、つまり……?」
 淡々と、そして意外に長々と喋る七後には申し訳ないが、俺は手振りと共にその台詞を途中で遮った。言葉が難しくてうまく呑み込めない。それを察してくれたのか、七後は簡潔に締め括った。
「俗雑な言い方をすれば、保世は男にモテる。それも並大抵ではなく」
 そして七後は何事も無かったかのように、デザートメニューを手に取って目を通し始めた。
 会話が途切れ、また沈黙がテーブルに訪れた。今、七後は何て言った? 小向は男にモテる? まさか、あの地味な小向だぞ?
 いやいやでも、あの頭の悪そうな二人組は二度もナンパしてきたし、高瀬直太さえも「かわいい」とかなんとか抜かしたくらいだ。俺もこの小向の顔を見てかわいい方に入るとは思った。だが実はそれが思い違いだったのか? ひょっとして小向は、実は「超かわいい」部類に入る人間だったのか? そして俺はその小向の身体で生活しているわけで、さっきまで俺に向けられていた男たちの視線は、つまり、そういうことなわけだ。色恋沙汰に疎い俺でさえ、男の端くれだ。その視線にどんな意味が含まれているのかは理解している。
 途端、肌に触れる空気が重く濁った。だが周りを見渡しても何も変わっていない。それもそうだ。変わったのは俺の認識の方。だまし絵に隠された物を見つけてしまうと、それ以降は逆に隠されていた物しか見えなくなるような、そんな感覚。分かりにくいか? いや、誰に分かってもらうものでもないな。現に俺の今の立場は絶対的な孤独だ。孤軍奮闘。
 とにかく、男の目が気持ち悪い。十七年間男として生きてきた俺が急に女としての生活を余儀なくされたからかもしれないが、自意識過剰かも知れないが、とにかくだ。
 ……脳みそが熱い。また頭を使い過ぎたか? いや、ここで休むな、俺。俺、休むな。何かを見逃しているような気がする。大事なことだ。俺が恐れているのは、男に言い寄られてモテモテになることか? 確かにそれは見事に気色悪いから避けたいことだが、もっと、その先にある……。
  ピトッ
 額に冷たい感触が訪れて思考が中断された。目を開けると、七後がチョコパフェのグラスを俺の頭に押し当てている。
「保世、疲れたときには甘い物。デザートは私の奢り」
 いつの間に注文したんだ? ……だけど舌の上にとろけるクリームの冷たい甘さは、俺にまとわり付いた不快感を紛らわせるには充分だった。これは不思議と喉を通った。


 こうしてファミレスを出て、七後に連れられるまま歩いていると、すれ違う人間が俺に対して向ける好奇と羨望とその他諸々の感情が実に多いとよく分かる。ときには男だけでなく女からも。今は七後が隣にいるからどうにか我慢出来るが、一人でいたら耐えられるかどうか不安だ。おそらく昨日までも同じく周囲から見られていただろうが、今日、気付いてしまった。空気が気持ち悪い。
 やっぱり俺が自意識過剰なだけか? それとも、女なら誰でもこんな目にさらされて生きているのか? だったら俺は改めて女というものを尊敬するぞ。これはもはや苦行だ。くっ、まさか俺が、後ろを気にしながら階段を上る破目になろうとは。
「……っ!」
 不意に、背中に強い意識を感じて振り返った。なんだ? 自分でもよく分からないが、誰かが俺を見ていたような気がする。通行人がちらっと見るのとは次元が違う、俺だけをしつこく追うような、粘性のある視線だ。
「保世、どうかした?」
「な、なんでも、ない……」
 だが、気のせいか。目を凝らしてみても、それらしい人影は確認出来なかった。利一がいるのかとも疑ったが、そうでもないらしい。
 小向は、自分の存在をどう把握していたのだろう。他人からどう見られているかを、どのように意識していたのだろう。日頃から何を感じて生きていた? 小向、お前は今、生きているのか? 俺がこうしてお前の身体の中にいる事実と理由を、お前は知っているのか?
「あ、高瀬」
 俺が雲を眺めながらどこにいるとも知れぬ小向の心に語りかけていると、七後が急に立ち止まって呟いた。歩道橋の欄干に寄りかかる七後の指差す先には……人が多くて分からない。
「ど、どれ?」
「あの臙脂色の上着を着ている」
 エンジ色って何色だよ? あ、あれか。駅の切符売り場の前で一人立ち尽くしているのが見える。……俺、あんなジャケット持ってったっけ? 新しく買ったのか? っていうか、あいつはこんな所で何をやっているんだ?
 俺が高瀬直太の姿を確認したのを確認した七後は、若干足早に歩き始めた。俺もその後を追う。

       

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Neetsha