Neetel Inside 文芸新都
表紙

短編ageha
VS 32女

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 少し疲れた。
 
 普段は仕事の用件以外では鳴ることの無い携帯電話が、深夜0時を周った頃に震えだした(マナーモード)。大抵20コール程震え続け、それが15分間隔で続く。日付は変わったけど、僕はそんな携帯電話を一瞥して何故か今もまだ働いている。

 僕の話を少しだけしたい。26にして初めて就職活動に挑戦したけど、世間の目は僕には優しくは無かった。職の選択肢も、採用の可能性も限り無くゼロに近かった中、奇跡的に出会った職。2年続いているよ。失った自由と引き換えに得た親の涙が、まだ僕を励ましてくれるから。

 こんな風に自分語りをすることが、自分の弱さを露呈することに感じることが多々ある。例えば今鳴っているこの電話を受けたところで、話の内容は100%相手の自分語り。例えば相手が、職以上に奇跡的に出会えた僕の彼女だったとしても。

 彼女と出会ったきっかけは2ヵ月前の合コンとやら。相手は全員4つ年上。皆身だしなみに気を遣っているようで、年がどうとか、別に気にもならなかった。慣れない高級感漂うレストラン。合コンなんて初めてのことだったし、酔えば緊張も解けるかなと、ビールを一杯飲みほした辺りで少しだけやや緊張が解けた。そして、左斜め向かいには髪を左右揃えている女性が座っていた。僕はその彼女に向かって

 「髪型、春日みたいで可愛いですね。フヒヒヒヒ・・・フヒ。テクノカット。トゥース!!」

と言ってしまった。案の定、場が凍りついた。その女性は以降僕とは口を聞いてくれなかった。偶然僕を誘ってくれた同僚は引いた目線をくれた。正直辛くなった。だけど、そんな中で前方(正面)に見える別の綺麗な女性が大いに笑ってくれていた。

 彼女は理沙と名乗った。大人びた雰囲気と、子供の心を持ち合わせた綺麗な女性だと思った。場が凍り付いた後、僕はずっと彼女との談笑に夢中だった。何を話したのだろう。子供の頃に読んだ漫画の話とかだったと思う。ただ楽しかったこと、シンパシーを感じられたことが記憶の断片に居る。僕と理沙嬢はその後も連絡を取り続け、3回のデートを経て、交際を約束することに成功した。

 「ぼぼっぼぼっくの、かかっかのじょになってほしいいいいいんだな、これが」

 目を合わせて話をすることすら勇気だった、僕の人生で初めての告白。上野駅しのばず口の改札前。一瞬、理沙嬢の目が笑ったんだ。

 「よろしくおねがいします」

 彼女は僕の手を握ってそう言ってくれた。幸せの絶頂だった。

 その時までは。

 彼女が変わったのだろうか。それとも彼女が本性を表したのだろうか。あるいは僕の非なのだろうか。今でも答えを見つけられない。

 「私は、結婚できなかったんじゃない。結婚しなかったの。わかるでしょ」

 二人きりの食事。よく分からない話が延々と続く。エンドレス相槌を打ち続けた。ストレスの捌け口になってあげられること、嘘を許すこと。彼女に僕がしてあげられることは少なかった。付き合う前に、兆しを察することができなかったのだろうか。そういえばあの合コンの日、僕が残業代で収入が多少多いことを、誰かが言ったことを思い出した。あの日、彼女が一番僕に興味を示していたのはそのことだった。ようやく思い出した。

 相槌を打つこと以上に、たまに投げかけられる質問に困った。彼女が、何年も親友で居続ける男友達が居るけど、そのことについてどう思うか。って、僕は

 「それを嫌がる男とは付き合わない方がいいよ」

と答えた。当たり前のことだと思って答えたから。すると

 「そういう返事なんだね。ふーん」

と、不機嫌になり、帰ると言いだす。帰ることを止めなかったら、止めなかったことを咎められる。

 そして毎日深夜の電話が鳴り止まなった。昼型生活の淋しい人が人が淋しくなる時間帯。仕事中でも受け続けた。その度に思った。エンドレス相槌を僕の人生を構成する一つにしたくはない。あなたを敬えない。あなたの望みを僕が受け入れる前に、あなた自身が変わらなきゃいけない。僕は休日でも電話に出なくなった。

 別離。交際以上に無縁な言葉だけど、意識し始めた。それは相手の自尊心を傷付けるか、僕の自尊心を傷付けるか、どちらか一つ以上は選べない。それなら、僕の自尊心を傷つけようと思った。

 シナリオができた。

 彼女の妹(既婚者)と、その旦那と会って食事をするというイベントを、キャンセルする予定だったが、敢えて受け入れた。

 師走を迎える数日前にその日は訪れた。準備は簡単で、それがすべてだった。インナーの綾波Tシャツをジーパンにタックインし。黒いトレンチコートの全面を解放し、ダンロップのスニーカーを履いた。最寄駅へ向かう途中に、ショルダーバッグの紐の長さを、ひざ以下になるよう調節した。腰に付ける携帯ケースやバンダナ、最近着用しなくなった愛すべきオシャレアイテムを可能な限り身につけた。

 最近は普段着は全てユニクロを着用し、身嗜みはかろうじて最近は普通に振舞っていた為、以前の僕のファッションを彼女は知らない。そして出会った直後、彼女は僕に言った。

 「え?なにそれ?いつもと違う?」

 「何がいつもと違うの?」

とりあえず答えた。

 「いつもは普通だから」

 いつも普通とは何だろう。自分にとって都合のいいことで、相手の人格を無視しているように聞こえた。

 その後のことは想像にお任せする。



 以降、彼女から連絡は一切無い。それでも幸せになって欲しいと願ってはいる。


 ラブプラスを挿入したDSに肉棒を挟み擦り、射精を終えた賢者タイムにそう願ってはいる。 

       

表紙

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