Neetel Inside ニートノベル
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 それからしばらく、からかい合いながら土煙の立つ乾いた山道を歩いていたが、朽ちた大木が倒れて道を半分潰している所を過ぎた辺りからラダの口数が少なくなり歩調もゆっくりになった。
 そしてじっとりとかいた汗が冷えて震えるような風が吹いてくると、ラダの足はピタリと止まる。
「どうした?」
「道案内、終わり」
 声音も固い。
「霧はまだないようだが?」
「……山頂広場に誰かが行くと霧がかかる」
「まさしく霧魔だな」
 ハンダルは唇の端を上げて笑み、
「どうだ? お前も来るか?」
「い……行くわけないだろ!」
「どうして?」
「こ……殺される」
「お前、いつの間にか俺よりジジイになったのか?」
「なんだよ! それ」
「さっき俺が言った事を忘れてるだろう? これが最後だってな」
 一瞬、凍ったようにラダは動きを止め、その後乾いた笑い声を無理矢理たて始めた。
「バっバカじゃないのか? ホントに最後に出来るなんて考えてるのか?」
「そう思うからこそここに来た。俺だけじゃない俺の前の奴も、その前の奴も、殺される予定ではなかったはずだ」
「そうさ。誰だって成功するって思って来てるだろうさ。……そしてあんたも今までの奴らと同じようになるんだ」
「ならない」
 言いながら腰の剣の柄をグッと握る。
「……それ、特別な剣?」
「その類だ。どうだ? 来る気になったか?」
「……どんな特別な剣か分からない」
「じゃあこれならどうだ?」
 ハンダルは懐から金貨をもう一枚取り出してラダの手に握らせる。
「いいか。俺はお宝を手に入れる。お前はその一部始終を見る。唯一の目撃者だ。村に帰ったらその話をするんだ。金と引き替えにだ。どうだ? 美味い商売だろう?」
「……美味い」
「だろう?」
 ニヤニヤとハンダルが楽しげな笑みを浮かべる。
「でも! 死んだらおしまいじゃないか」
「大丈夫だ」
「あんた、その自信はどこから出てくるんだ?」
「生まれた時から持ってるんだ」
「生意気でムカつく赤ん坊だったんだな」
 言って視線が合った瞬間、二人はどちらからともなく笑い出した。

「行くぞ」
「ちょっ!」
 ラダの襟首を掴んでハンダルは歩き出す。
 もちろん、山頂に向かって。
 汗は既に乾いたが肌を嬲る風は冷たく激しくなってゆく。
「離せよ! 離せったら!」
「飯の種だぞ。それも一生食いっぱぐれない」
「…………」
 どうするかラダが迷っている間に山道は終わる。
「ここで見ていろ。よーく見てろよ」
 手を離し、薄汚れたマントを翻してハンダルは山頂広場に足を踏み入れた。
 途端に霧がハンダルの左右から広がってくる。
「ハンダル!」
 一人で取り残される不安からか、ハンダル自身を心配してか、ラダは全速力で駆け寄りハンダルの腕にギュッとしがみついた。
「どうした?」
 思わず走ってきてしまったが、今さら戻れない。
「ち……近くじゃないと霧で見えないから来たんだからな!」
「ああ」
「怖くて来たんじゃないからな!」
「分かった。だが掴まるならマントの端にしてくれ。それじゃ動けない。それと――」
 ハンダルはラダの頭を軽く叩いて「目を閉じるなよ」と言いながら気合いを入れさせると、広場の中央に視線を定めた。

       

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