Neetel Inside 文芸新都
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魔法妄想
イン・ザ・ワールド

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 例えば。
 時間を止めて、女子の体を好き放題触ってみたいとか。既存の名作を自分が一次創作としてネットにアップしていたらとか。ジャニーズに在籍しながら学校にも通う事で無双状態になってみたいとか。
 人間の妄想は限りない。頭の中の仮想空間で好き勝手暴れては、布団に潜って頬を緩めたりする。こう聞くと非常に涙ぐましい高校生活のようにも思えるが、なかなかどうしてこれが楽しい。金はかからないわ疲れないわ法には触れないわで、百利あっても一害すら無し。“妄想”とは、人間に与えられた最大の遊戯なのである。
 ――と、これはあくまでも建て前で。さんざ妄想を楽しんだ後には、現実とのギャップに落胆すること例外無し。しかも、多くの場合は自分には無理ながらも人によっては実現可能な内容であり、中途半端に現実の範疇を出ない。それ故、人は才ある者を妬み続ける。『生まれつきじゃん』『親が凄いだけ』『才能で全て決まる』などと、何かと理由をつける事で才無き自分を正当化しようとするのだ。時には暗闇で枕を濡らしながら。
 こう考えると、自分は本当に恵まれた。才能を持って生まれてきて、本当に良かった。

 ○

 2009年7月26日。昨晩、俺は胸の高鳴りを抑える事が叶わずに結局一睡も出来なかった。
「あいつら、ちゃんと用意できてんだろうなー」
 そんな事を呟きながら、我が学び舎へと足を向ける。今日は日曜日、人はほとんどいないだろう。俺だって、本当なら学校なんかに用は無い。しかし今日ばかりは胸を踊らせながら校門を抜け、生徒玄関の一番端から中へと入る。普段通りに靴を履き替え、重いスクールバッグを肩に背負う。いつもと何ら変わらないはずの作業の一つ一つも、不思議と華やいでいる様に思えるというもの。
 東階段で最上階まで上がり、廊下の最端にある教室。ここで今日、大げさに言えば俺は神となる。たてつけの悪い扉をガラガラと開き、遂に俺は一歩足を踏み入れた。
 ――そこにあったのは、普段と変わらぬ喧騒。いや、厳密に言えば少し違う。俺以外に男子は一人もおらず、女子ばかりが数人いるのみ。流石に、壮観なり。
「雨神(あまがみ)くんおはよー」
 しかし俺は、その声を無視し黙って教壇へと向かう。その姿を目で追う女子もいれば、好き勝手に会話を続ける者もいる。
 ガタン。少し跳び上がるようにして教壇へ上がり、教卓に手をついた。すうっ、と息を吸い込んでから、数人の女生徒へ向かって声を発する。
「時よ止まれや!!!」
 その声は準密室の教室内で反響し、自身の耳にも騒がしい。が――しかし、その成果は絶大で――。
 教室内の、時間が止まった。先程までいつも通りに笑い合っていた女生徒達は、その瞬間の状態のままで動きを止めている。
「おお…………!!」
 思わず、嗚咽にも似た歓声が漏れる。クラスの女子が皆、俺の目の前で時を止めているのだ。俺はすぐさま教壇から降り、一番近くにいる女子に更に近付いた。そしてふんわりと……。発展途上の胸の上に手を添える。
 激震が走った。これが、夢にまで見た止まった時の中の痴漢。普通に触るのとは全く違う。俺は興奮を抑えようとすらせず、そのまま胸を揉みしだいた。
 くそっ……、涙が出そうになる。こんな素晴らしい世界がこの世にあったなんて。俺は目の前の子の体を一通り楽しむと、次にクラス一の美人の元へと歩み寄った。友人との会話の途中だったのだろう、口を開いたまま止まっている。何故だろう? その時点で官能的だ。
 その子は随分と発育の良い体つきをしていた。先程の幼児体系とは全然違う。胸に手を添えると程好い弾力に押し返され、するとまたこちらも負けじと揉み返す。まさに愛撫のキャッチボールだ。
 今度はスカートの中にも手を潜らせてみた。尻と胸を同時に撫で回し、そして暫く経った後、股間の前側にも指を進める。別に、今更女性の恥部に神秘的な魅力を感じたりはしないが、やはり止まった時の中というのが素晴らしい。図らずも、股間が膨れ上がってしまうではないか。
 しかし、そうして暫くの間下着の中で恥部を直に触り続けていると、信じられないものを耳にした。
「うっ……」
 それは、開いた口元から漏れた吐息。俺は下着の中から手を取り出した。そして制服の裾で右手を一拭いすると、そのまま握った拳をそいつの頬に思い切り振り下ろしてやった。
 そいつの体は豪快に吹き飛び、後方の机や椅子をいくつもなぎ倒した。それに反応して、他の奴らも声を上げる。
「声出すなって言っただろうが……」
 俺は、睨み顔の禍々しさには定評がある。周囲を思い切り睨みつけ、握った拳を見せ付けた。
「クソッ!! クソクソクソクソ!! このドカスがあ!!」
 怒りにまかせて、右足で力の限り机を蹴り飛ばした。中の教科書類が零れ出て、そして机もまた音を立てて壁へと突撃する。胸糞悪い、今日はもう帰ろう。
「別に誰かに話しても構わねーが、そん時は覚悟しろよ」
 最後にそう言い残して、俺は教室を出た。
 次やる時はもっと演技の達者な奴らを揃えなくては駄目だ。奴らの糞っぷりに腹を立てながら、俺はそんな事を考えていた。

       

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