Neetel Inside 文芸新都
表紙

「一枚絵文章化企画」会場
[『山岳卓球弓道写真心霊科学探偵漫研部同好会』の冒頭より] 作:田中田

見開き   最大化      

[『山岳卓球弓道写真心霊科学探偵漫研部同好会』の冒頭より] 作:田中田



「ピンうさのひげの本数、白うさのやつれ具合、青うさのしっぽの長さ、女の子がはいてるスカートのひだの数! どうだ、あたってるだろ!」
 自信満々で披露した彼の答えは間違っていた。
「あたってねえよ。どうでもいいけどピンうさってピンサロみたいですね、響きが」
 授業中だと言うのに携帯で呼び出されてこそこそ図書室までやってきた山田が、後輩の女子に見せられたのは、子供の落書きレベルの二枚の絵だった。
 二枚の絵は全く同じ内容が描かれており、色とりどりの三匹のうさぎと、その前でうれしそうにジャンプしているうさぎ好きの女の子というものだ。ただし紙の大きさは
まったく違って、片方はA4ほど、もう片方は手のひらサイズの紙に描かれていた。
「それにそれは間違い探しじゃありません」
「えー? じゃあなんだよ、もしかしてお前が描いたの。うん上手いね」
 山田は適当にバカにする声で言ったが、後輩の目つきは意外にも真剣だ。
「よく見てください。何か……気がつきませんか」
「?」
 言われて絵に目を近づける山田だったが、これといっておかしなところは見出せなかった。
「手触りはどうですか」
「あっ」
 なるほど手で触れてしまえば明らかだった。それに角度を付けて見てみれば光沢もある。なめらかな質感を持つ小さいほうの絵は、絵をうつした写真だったのだ。
「それでこれがどうかしたっての? なんでこんな絵をわざわざ写真に」
「もっとよく見てください。分かりませんか? ……絵のふちがうつってないじゃないですか」
 たしかに後輩の言うとおりだった。この絵を写真におさめたというのなら、どうしても紙のふちが見きれて背景がちらりと映っているはずだ。
「それに奥行きも妙に足りないな」
 写真には遠近感というものがまったく欠けていた。レンズと被写体との距離を感じさせる空気とでもいうようなものが感じられないのだ。これではまるで写真じゃなくて、単にコピー機を使って印刷しただけじゃないか、と山田は思った。
「ちがいます、コピーしたものではありません。そもそもこの二枚、じつは写真の方が先に撮られたものなんですから」 
「あ? どういうことだよ。順番がおかしいだろ、絵が先に描かれてなけりゃその写真を撮ることなんてできっこない。あ、もしかして元になる絵がまずあって、それを写真に撮ってさらにそれから模写したのか」
「それも違います。だとしたら、ここまで寸分たがわずに同じ絵が描けるわけがありません」
 山田も自分で言っていることがおかしいことには気が付いていたが、そうとでも考えなければつじつまが合わない。
「写真を模写したというのは当たっています。これを描いたのは私の姪っ子なんですけど、もともとの写真にはうさぎでなく、兄夫婦の家で飼っている犬がうつっていたそうです。けど姪っ子は私がけしかけて以来、大の犬嫌いに……。それで代わりにうさぎを描いたということです」
「……ひどいことするね、お前」
 結局可愛がっている姪の絵を見せびらかしに来ただけなのだろうか、と山田はあきれた。


「ここからが重要です。その犬、チャッピーという名前のラブラドールが、今朝起きたらうさぎになっていたのです。ピンクの」
「はあ?」
「そして居間に飾ってあった写真も、姪っ子の絵に変わっていた……」
 まさか、と山田は思った。子供がよく言う、口から出まかせではないのかと疑った。だが目の前にいる後輩は、そんな妄想を真に受けるタイプでは決してなかったはずだ。


「ここからがさらに重要です。居間に飾ってあったのは"家族写真だった"」
「おいちょっと待て。もしやこの絵が呪いの絵だとでも言うんじゃないだろうな」
 はい、と後輩はうなずいた。
「このままでは私の兄と兄嫁が、白と青のうさぎになってしまう。かといって警察や医者を頼ったところで成す術はありません。そこで先輩に物は相談なんですが――」
 そこで山田はある事実に気づいた。
「この子の服、エチオピアの国旗に似てるな」



       

表紙
Tweet

Neetsha