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「一枚絵文章化企画」会場
「あと一人」作:猫人魚

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「あと一人」 作:猫人魚

 朽ち果て、寂れた廃村の更に奥。最早誰も記憶していない社から微かに光が漏れている。その光の主は、この廃村の唯一の生き残り、巷では「首切り童子」と畏れられている男。彼は、その名の示す通り、子供の頃から何人もの人間を切り捨て、その首を刈り取っていた。そして青年となった今でも、それは続けられている。10年以上首を刈り続けているのだ。人間らしい暮らしを捨て、修羅の道を歩み続けた彼は、自身が世間の常識とは大きく外れた存在である事すらも自覚していない。ただ、腹が減れば食料を手に入れ、寒ければ服を奪い、憎い相手を見つければ殺す。何が悪くて何がおかしいのか、それを教える者もいないのだから当然だ。

 社の中には、無数の首が飾られていた。彼が今までに刈り取ってきた首達。手前にあるのは比較的新しく、奥にあるのは既に骨だけになっている。故に社の中は腐臭が漂い、決して居心地の良いところではないはずだ。だが彼にとっては、慣れ親しんだ匂い。単に鼻が慣れて匂いを感じないだけだが、この部屋で無数の首達に囲まれていれば、彼はゆっくり眠る事ができるのだ。自分は前に進む事ができている。自分は復讐を果たせている。自分は、かつての友や家族の為に、やれる事をやれていると…思い込めるから。

 彼の故郷である村を襲った者達。何が目的だったのか、彼には分からない。金か、女か、食料か。しかしそんな事はどうでもいい。彼は奪われた。それが彼にとっての現実であり、唯一の事実。だから復讐する。単純な動機だが、残された彼には他に何もなかった。手がかりは、襲撃の際に見た顔の記憶だけ。あとは殺しながら聞き集めた情報を頼りにひたすら数珠繋ぎに殺して回った。なので、実際には関係ない人間も殺しているのかもしれない。いや、もしかしたらとっくに仇は取り終っており、関係ない人間だけを殺しているのかもしれない。どこまでが仇でどこからがそうじゃないのか、彼にもわかっていないのだ。

 しかし彼は、首刈りを止めようとはしない。他にやる事がないし、どこまでが仇かも分からないが、もしかしたらまだ仇を取り終えていないかもしれないからだ。

 いや、それすらも単なる言い訳で、最早首を刈る事自体を生きがいにしてしまっているのかもしれない。彼は手がかりを元に殺しに行く際、あと一人、あと一人と呟く。だが、相手を殺す直前まで追い込んだ後は、次の手がかりを聞き出すまではトドメを刺さない。相手が告げる名前は、本当はもう関係ない人間かもしれないのに…

 そうして今日も、彼はあと一人と呟きながら社を後にする。いつの日か、誰かが彼の命を刈り取るその日まで、彼は「首切り童子」であり続けるのだろう…


おしまい
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