Neetel Inside 文芸新都
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「一枚絵文章化企画」会場
「復おめ」作:木田トモキ

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「あんた…何してんの。」
しとしとと雨が降る中、日が落ちて周りが青暗くなった頃合に奴は黒装束を纏って、襲撃するにはあまりにも粗末なエアガンを持って私の病室へ現れた。髭を生やし可笑しな髪型、一体誰なのだろう。そういえばまだ私が在学中の時出ていた講義に、もう少し大人しめの奴なら居た様な気がする。私は襲撃された事よりも彼の豹変ぶりに少し驚いてしまった。


 私の問いに答えずに奴は銃口をこちらに向けた。エアガンとはいえバネで弾き出された玉はいくらか威力を備えているだろう。私は無意識にベッドから半身起き上がり手を上げて対応した。
「人間だったらこんな無抵抗な病人まで襲う事ないんじゃない?」
奴は黙ったまま冷たい目をこちらに向ける。私は罰を受けるほど行いが悪い人間なのだろうか。おもわず溜息をついてしまう。


大学に居た時に私は何かしたのだろうか。目立たない私は人様に意地悪などできるほどではなかった。それなりに楽しくやっていたはずだ。やり応えのありそうな分厚い教本と二時間にも渡って続けられる講義に少しでも面白さを感じているはずだった。私の沢山の努力を以て保つ、新しい友人たちとの間柄に満足しているはずだった。寸暇も惜しめぬはずだったのだ。それがいつの事か忌むべき病魔が私の身体を襲ったのだ。幸い手術も無事に済み休学から一年も経った今なら復学できることになりそうだった。だが入院した初めは友人たちが見舞いに訪れてくれたのだが、今となれば誰もいなくなってしまった。居なくなってしまえば繋がりなど一瞬で途切れてしまうのだろう。そこで訪れたのがこの不恰好な襲撃者だ。可笑しくてなんだか虚しくもなった。


奴は引き金に指を当てたまま、冷たい目で私を見続けている。私に恨みがあるなら何故殺せない武器など使う。


全てあの時のままであったら楽しくやっていた……。しかしこの一年間よく考えてみるとあの時の事は全て見せかけの満足ではなかったのかと考えるようにもなった。私は本当はもっと楽しくこの時期を過ごしたかった。適当に学を修めて、適当に恋愛をして、様々な人間関係を構築して。こんな筈じゃなかった。

「わずらわしい!撃つのなら早く撃て!」

間髪空けず、乾いた音が病室の中で響いた。私の身体が受けたのは銃弾でなく、色とりどりの紙吹雪だった。銃の形をした新手のクラッカー。紙ふぶきと共に詰められていたメッセージも舞っていた。

ご回復おめでとう。早く大学に戻って来い。

普段、奴とはあまり話を交わしたことも無かったのだが、なかなか味な事をしてくれる。さっきまで向けられていた冷たい目はいつの間にか、にぱあとした笑顔に変っていた。

復学したら今度こそ楽しくやっていけるだろうか。それは未だわからない。とりあえず今度天気が良くなったときに大学に寄ることにしよう。

       

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Neetsha