Neetel Inside 文芸新都
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「一枚絵文章化企画」会場
「虹の根元目指して」作:紅鉄

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「さ、進むわよ!」
 軽装ながらもしっかりと冒険用に装備を整えた金髪の女性が嬉しそうに指で行く先を指した。
「そ、そちらはよされた方がよろしいのでは?」
 少し遅れるようにして、いかにもたこにもとろそうな男がひーひーと汗をかきながらお団子頭の女性に促す。
「なによセバスチャン。私に命令をする気なの?」
「いいえ、お嬢様。私は太郎です」
「そんな事はどうでもいいのよセリヌンティウス」
「しかしですね」
「うるさいわエドワード」
 どうでもいいらしい男の名前は七変化した。それこそ女性の指差す先の虹のように。
「お嬢様、あんな噂話を信じるだなんて、どうかしているとしか思われませんよ?」
 男はポケットから少し黄ばんだタオルを取り出して額を拭いながら言う。
「きっとあの根元には我がローズ家を復興させるには十分な財宝が眠っているはずなのです!」
 鼻息荒く女性は熱弁するが、太郎は興味を示す事もなく、道端の草に座り込んで背負っていた鞄の中を物色しては嘆息をつく。
「しかしお嬢様、勝手に家を抜け出して、しがない使用人と旅に出るだなんて、ご主人様はきっと私達を血眼になって探しておいでですよ」
「そうね、あのお父様なら『草の根を掻き分けてでも我が愛娘を探し出すのだ』とか言ってそうよね」
「そうです。きっと私とお嬢様の手の指と足の指を使っても足りないくらいの兵隊が走り回っている事でしょう」
 太郎は嘆息を鞄にしまいこみ、立ち上がった。
「それに、ご主人様なら有り余る富を駆使してどんな手を使ってでも私達を見つけ出すことでしょう」
「そうね」
 太郎の言葉に、少し不安そうに顔をゆがめて女性は答える。
「だから今のうちにお屋敷に帰りましょうお嬢様」
 そう言って太郎は女性の指したほうとは反対の道を指差す。
「虹の根元なんて存在しないですよ」
 やさしく微笑んでから、さぁと女性をせかす。
「う、う、う、うるさいわよクリスティン。虹の根元があろうとなかろうと、あなたは私についてきて居ればいいのです!」
「はいはい。分かりましたよお姫様」
 やれやれと首を振って太郎は女性に歩み寄る。
「その、太郎」
「今なんと?」
「貴方そろそろ私の事を名前で」
「どうしましたかお嬢様!? 私の名前を呼ぶだなんてあなた偽者ですか!?」
 女性の言葉は太郎によってさえぎられ、さえぎった太郎のすねは、ガンと鈍い音を立てて激しい痛みを生み出した。
「お、お嬢様、その剣はどうか悪漢から私めを守るためだけに使っていただくと幸いなのですが」
 ふん。と少しすねたようにあきらかに装飾の多い剣を柄ごとしっかりと腰に挿しなおして女性はずんずんと太郎をおいて進む。
「ま、待ってくださいよお嬢様ぁ」
 太郎は情けない声を出しながらその場にうずくもってしまう。
 
 
 
「さて」
 女性が見えなくなると太郎むくりと起き上り体の泥をはたき落とす。
「ジョンにアルにグレイですかね?」
 やれやれといいながら太郎は首をコキコキと鳴らす。
「隊長にはかないませんね。おとなしく投降していただくと嬉しいのですが」
 物言わぬはずの岩が、木が、草むらが話した。
「そうでもないよ。遠くで僕を狙っているハリーになんか気づいていないからね」
「ははは、あいつにはまだまだ気配の消し方が足りないと隊長が言っていたと伝えておきますよ」
 ガサガサと音を立てながら木の陰から軽装の男が現れた。
「それは助かるよ。ついでに言うと君達もまだまだと伝えておくよ」
「これは手厳しいですな」
 次々に出てきた三人の男は、これは参ったといわんばかりに頭をかきながら声を上げて笑う。
「さて」
 ぴたりと笑い声がやんだ。
「隊長」
「隊長はよしてくれ。もう君達の隊長じゃない」
 太郎はうんざりしたようにため息をついてシッシッと男に帰れと合図をする。
「貴殿の罪状はお分かりか?」
「国家反逆罪および窃盗罪、そして第一位王位継承権を持つミラ・ローズ様の誘拐と逃亡」
「よくお分かりで」
 太郎は自らの罪状を述べると目を細めたまま男の皮肉を受け流した。
「それでは今一度お聞きいたします。投降の意思は?」
 三人が腰にぶら下げた飾り気のない剣に手を伸ばす。
「そうだね」
 太郎は悩むようにして顎に手をやり、考え込んだ。
「やだね」
 そして言うとにこりと微笑んだ。
「それは残念です」
 三人は本当に残念そうにため息をつき、腰の剣を勢いよく抜いた。
 
 
 
「じゃ、ちゃんと傷口は冷やしておくんだよ」
 ひらひらと手を振りながら太郎はぴくぴくと痙攣する三人に残して歩き出す。
「少し時間をかけすぎたな」
 少ししびれる拳を振りながら、そういうと太郎は歩みの速度を上げた。
 すると、数分ですぐに金のお団子頭が見え始めた。
「お嬢様、待ってくださいよぉ」
「遅いのよ、馬鹿」
 コツンと三人の熟練の近衛兵を相手にしてひとつのかすり傷も追わなかった男が殴られた。
「へへ、すいません」
 殴られた側はいたってへらへらしている。
「さ、行くわよあの虹を……あら?」
 女性の指差す先にはもう虹は出ていなかった。
「ほ、ほら、違う虹を探しましょうお嬢様。何も虹は一つではありませんよ」
 がっくりと肩を落とす女性に太郎はやさしく声をかける。
「そ、それもそうね」
 女性は元気を取り戻したように姿勢をただし前を向く。
「だからお家に帰りましょう」
「何でそうなるのよ!」
 女性はすっかり元気を取り戻したようで、太郎の進めるほうとは真逆の、初め指をさした方向へと歩き始める。
「確かこの先の町まではあと数キロ。まったく、手のかかる天邪鬼様だ」
 ポケットから方位磁針を取り出した太郎は確認するようにつぶやいて女性の背中を追いかける。
「そういえばお嬢様」
「なに?」
 そそくさと女性の隣についた太郎は相変わらず笑顔のまま聞く。
「先ほどは何を言いかけたんです?」
「べ、別になんでもないわよ」
「そうですか。ローズ様」
 太郎はしてやったりという顔で口元を緩めた。
「あ、あんたしっかり聞いてたんじゃないの馬鹿!」
 ゴツンと音を立ててまた剣の柄と太郎のすねがキスをした。
「さ、行くわよ太郎。虹の根元に向かって」
「はい、ローズ様。永遠の愛を求めて」
 にやりとまた太郎は微笑んだ。
「なんで貴方が虹の根元に有るものを知ってるのかしら太郎?」
「さぁ、私はそんな噂流していません」
「貴方って人は……」
 口をあんぐりとあけたままローズはここに至った経緯を知った。
「そう、全て貴方のせいだったって訳ね」
「ささ、ローズ様、無能でしがない召使の私にご指示を」
 太郎はそう言って片膝を地面に預けて腕を組む。
「そうね、わが国最強の騎士を召使にするのも悪くないわ」
「ありがたき幸せ」
「さ、進むわよ!」
 女性は初めと同じ方向を指差したままはっきりと宣言して、歩を進める。
「仰せのままに」
 太郎は少し遅れるようにしてその後に続いた。路銀にしようと退職金代わりに詰め込んだ、国の宝をバッグに詰めて、国の宝と虹の根元をひた求め。

       

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Neetsha