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「一枚絵文章化企画」会場
「魔竜散華」作:顎男

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☆☆☆

『魔竜散華 作:顎男』

 死亡確定。とどめは必要なし。
 それが竜と魔女に下された判断だった。

 金色に輝く鎧をまとった四人の男たちが立ち去った後には、小さな村なら顎を乗せるだけで潰せてしまえそうな巨竜と、その顎に身体を委ねる少女だけが取り残されていた。
 他にはなにもない。
 竜の口腔からは熱く湯気の立った血が流れ続け、大地を汚染している。
 竜の血は毒なのだ。
 その血が、人間と魔法使いの叡智の結晶である四本の聖剣によって首を斬り落とされた傷口から止め処なく溢れている。

 竜は諦めていた。
 自らは、人間に害をなすつもりなどなかった。
 ただ人里離れた静かな場所で、霞を食みながら時の流れにその巨体をさらわれていようと決めていた。
 しかし人間は竜を恐れた。その結果が、この惨劇だ。
 もうよい。そう思った。
 ただ、唯一疑問なのは、未だにぜぇぜぇと荒い息のまま、尽きた魔力を搾り出して竜を回復させようとする魔女の存在だった。
 彼女の髪は赤かった。四人が訪れる前は、黒かった。
「なぜ……おまえは、我を助けた」
 魔女は答えない。
 手のひらからかすかに暖かい光が漏れ、竜の顎をほんの少しだけ癒した。
 が、すぐに傷口が開き血が決壊し魔女を穢す。
「そもそも、剣の製造に携わったのも、おまえであろう」
 この世界に生き残っている魔法使いは、この魔女一人だ。
 世俗から離れている竜とて、その耳は不要の長物になったわけではない。
「べつに……」と魔女は口を開いた。
 本来なら喋れぬはずだが、死の間際、最後の力が湧き上がっているのかもしれない。
「あんた一匹殺して、人間様の世界に受け入れてもらえるなら、それでもいっかーって思ってたんだけどね。
 でも、どうやらあいつら、どっちみちあたしも殺すつもりだったみたいだし」
「人間は……あまりにも愚かで、残虐だ」
「そうだね。でも、やつらがサイテーサイアクのクソヤローどもだったおかげで……あたしは最後に一つだけいいことができたよ。
 あんたの味方として、戦えた。だから、それで忘れてやる」
「……。これで長く続いた、人か竜か魔、どの種族がこの大陸を制覇するかを巡る長く虚しい争いが終わったわけだ」
「そうとも。いい気味だね。大陸なんかくれてやる……そんなもん、いるもんかっての」
「クク……人ではない我らが、やつらよりもよほど人間らしい台詞を吐くとは……皮肉よな、魔女よ」
「へへ……そうかもね。あ、ねえ、あんた、オス?」
「そうだが、どうした」
 いやね、と魔女は口を濁した。
 竜の目からは彼女の横顔しか窺い知れなかったが、その口元がうっすらと微笑んでるように見えた。
「あんたいい男だから、来世で会ったら、付き合ってあげてもいいよ――」


 人間は魔も竜も根絶し、己が進化の障害をすべて排除することに成功した。
 その代わりに、一番失ってはいけないものを、どこか遠いところに置いてきてしまったのだ。

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