Neetel Inside 文芸新都
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「一枚絵文章化企画」会場
「理想の彼女」 作:山優

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 僕は人が来るのを待っていた。今横たわっている彼女をみて微笑みながら。
 彼女と出会ったのはもう三年も前だ。一目惚れだった。そして僕たちはすぐに付き合い始め、一緒に暮らし始めた。二人きりの生活だ。僕は彼女のことを桜と呼んだ。
 まさしく理想の彼女だった。桜は僕が求めているすべてを持っていた。美しく、優しい。それに僕以外の男に情が移るということもない。ずっと僕のことを見続けてくれるのだ。桜がきてから毎日が幸福でたまらないのだ。

 それに桜が来てから僕の創作活動も大分満足のいくようになってきた。自分でも分かる。それに周りの人たちにも言われた。バイオリンの音が違うのだ。全く違う。それに楽譜も驚くほどすらすら書ける。精神面がこんなにも音楽に影響するとは驚いた。
 そのおかげでコンサートも増え収入もかなり増えた。そしてその金を貯め続けた。今日の為に。彼女の為に。
 
 それにしても遅いなと僕は時計をちらちら見ながら思った。時が経つのがこんなにも遅いのは初めてだ。
 イライラしている僕は桜に救われた。桜が小さく、かわいく寝言で僕の名を呼んだのだ。ああ、愛らしい。そう心の底から思った。そしてこうも思った。こんなにもかわいい完璧な人間がこの世に存在するだろうかと……。いやいないだろう。
 桜はいつも僕の練習用のバイオリンを側において僕が作曲した楽譜を見ながら寝るのだ。こんなにも僕を思ってくれた人は初めてだった。そしてこれからもきっとそんな人間は現れないだろう。
 
 チャイムが鳴って僕はドキドキしながら玄関へと走った。そこには僕の期待通り作業着を着た作業員がいた。作業員はこう言った。
「ここでよろしいですよね」
 僕は丁寧に言った。
「はい。そうです」
 作業員は
「失礼します」
 と言ってずかずかと家に入って来た。僕は作業員を彼女がいる部屋に案内する。作業員は彼女をみると
「これですね」
 と言った。正直不愉快だった。さらにこう言った。
「タイプe_32型のロボットですね」
 僕は耐えきれずに言った。
「僕の彼女ですよ。物扱いしないでください。それに桜というちゃんとした名前があるんです。桜さんと呼んでください。あと丁寧にやってくださいよ」
 作業員は面倒くさそうにこう言った。
「分かりましたよ。では作業は三十分ほどで終わるのでそれまでお待ちください」
 正直はらわたが煮えくり返っていたが、これ以上怒ってもしょうがないと思った。なにしろ彼は桜の頭をいじくるのだから変に根に持たれたら大変だ。僕は彼を監視し続けた。
 
 今、作業員がやっているのは桜の人工知能の取り替えだ。桜は人工皮膚で体の方は人間そのものと言っても外見だけなら差し支えない。
 が、しかし知能の方はお世辞にもいいとは言えない。会話も日常程度なら問題ないがそれ以上となると厳しい。それに運動も厳しい。その証拠に桜は今足をけがして、包帯をしている。障害物を認識するのが困難なのだ。
 
 だがしかしそんな諸問題はこれで一挙に解決されるだろう。これで桜は人間並みの知能を得るのだ。それに記憶は引き継がれる。もうロボットなんて誰にも言わせない。費用は相当かかった。桜と出会う為にはサラリーマンの年収程度の金が必要だった。今回はそれの三倍程度の金がかかった。

 僕ぐらいの年齢なら普通そんな金を用意するのは無理だろう。用意できたのは僕の創作活動が上手くいっていることもあった。それに僕は別に金を使う必要もなかった。桜は高いバッグを買ってだとか宝石を買ってだとかは言わないのだ。
 
 三十分後作業員は約束通り作業を終えた。作業員は帽子を取りながら事務的に
「これで大丈夫だと思いますがもしもの時は連絡してください。無料で修理しますから」
 と言った。作業員が帰っていくのを見て僕は桜に抱きついた。嬉しかった。桜は少し呆然としているようだった。新しい人工知能になって慣れないのかもしれないな僕はそう思った。

 人工知能を設置した作業員は家を出てからこう吐き捨てるように言った。
「まったく気味の悪い音楽オタクめ。気持ち悪いったらありゃしねえ。まあ俺もこれで飯食ってるんだから文句言えねえか……。でも可哀想だなあいつ。新型人工知能に変えるとロボットのなつきが悪くなるって話知らないのかねえ」

       

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