Neetel Inside 文芸新都
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「一枚絵文章化企画」第二会場
「数珠つなぎ」作:田中田(1/31)

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「数珠買いませんか」
 気合を入れるために袈裟まで着てきたのにさっぱり売れない。
 やっぱりわたしにはセールスマンの才能ないのかなー、いや泣き言を言っても始まらない、がんばれわたし。次はこの家だ。
「数珠いかがっすか」
「いやあの、ウチほら……こういうもんなんで、ね? 見ればわかるでしょ?」
 なるほどなるほど、ドアチェーンの隙間から顔を出した人物は、ハンドサイズの十字架を小粋に持ったカトリックのシスターのようだったが、そんなことは数珠の要不要の問題でしかない。
 つまりは買うか買わないかだ。
「いや、なかなかいいもんですよ数珠。首にかけとくと肩コリもとれるし、食パンの口むすぶ青いやつの代わりにもなりますしね」
「いえそういうのほんと間に合ってるんで……」
「あーわかりましたー、この件はもうけっこうです。ちょっとトイレ貸してもらえませんかね。実はさっきからもれそうで」
 むげに断るのも悪いと思ったのか、先方は二つ返事で貸してくださった。


 悪趣味なトイレである。
 今時珍しい、ドリフ式というのだろうか、壁の高い位置に水タンクが付いており、ひもを引っ張るとそこから水が流れる仕組みになっているのだが、そのひもというか鎖の先端に、全裸にひんむかれた女性のキーホルダー(等身大)が結ばれていた。
「数珠どう?」
 わたしは疲れていたのでキーホルダーにも売り込みをかけた。無論何の返事もない。
 だがここであきらめては二流のセールスマンだと自ら認めてしまうに等しい。
「おねえさんどうですか数珠。ちかごろ巷で大ブレイク中なんですよ。これを持ってたら煩悩が消えてお金が貯まるようになったり、勉強がはかどってテストの点数で友だちに差をつけられたり、なぜかスポーツ万能になったり幼馴染とのこいもうまくいくようになったりするという使用者の声も続々と……。ね、おねえさん。なんか返事してくださいよー。そんな蝋人形みたいに固まったりしてさー。わたしひとりで馬鹿みたいじゃないですか。えーいおっぱいもんじゃうぞーう。ひっ」
 死んでる……
「ナンマンダブナンマンダブ」
 さっそく役に立った。




 
 

       

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