一四

        十四


      十四の一



 大晦日、正午前。
 年末の大掃除を経てすっかり綺麗になった立花家私室で目を醒ました銀乃介は、一番にこめかみを押さえた。
 昨晩行われた立花家忘年会は、昨年までは響が呑まなかったこともあり並の宴であったのだが、今年は少々具合が違った。子供の酒などやらないはずが、どうにも勝負師の性というものか、どちらも引かずの盤外チキンレースにその場のノリで本因坊まで加わっての呑み比べ、一升ではきかずに呑んだはずだ。
 一日がこの調子では動くことさえままならぬと覚悟を決めて便所へ向かい、慣れた手順で胃の中身を空にする。
 幾分マシになった頭で居間へ向かうと、こたつで背中を丸めながら蜜柑の皮を剥く慈乃の姿が目に入った。一人ぽつねんと蜜柑をいじるその姿からは、いつものやかましさなど欠片も感じられず、それどころか妙な哀愁を帯びている。
「おっちゃんと響は?」
「お父さんはお母さんと買い物。響ちゃんは……もう帰った」
 終盤に向けてしぼんでいく辺りが実に解り易い。
「実家まで着いていく、とか喚いてキレさせたのか」
 アタリをつけて放り込んでみると、
「うるさい……いつもはあんなに怒らないもん」
既に涙声である。
 いつもならば散々からかって遊んでやるところだが、酔いの抜けきらない頭では面倒が勝った。
「俺も風呂浴びたら出るからよ。二日の夜には戻るからおっちゃん達に言っとけ」
「銀ちゃんは帰ってこなくて良いよ」
「響の相手やってやるっつってんだ。お前の変態将棋で調子崩してたら、わざわざ老体に鞭打って出てくる爺サマに悪いだろ」
 軽いジャブを入れてやり、ムッとした表情で振り返った、一瞬の隙を逃さない。白い筋まで丁寧に剥き終えて、後は口に入れるばかりであったろう、蜜柑を横からかっさらう。
「酔い醒ましには柑橘系ってな」
 口をモグモグと動かしながら言ってやると、
「さっさと帰れ、バカ!」
言葉と一緒に、皮の剥かれていない蜜柑がまるごと飛んできた。
「うおっ! あぶねえだろバカ野郎」
 言いつつも、直撃したわけではない。掌でしっかり受け止めている。
「うっさいバカ! 早く帰れ!」
「響がいないとマジでひたすらウザいな、お前……じゃ、精々良い年迎えろよ」
 このままウダウダしていたら第二第三の蜜柑が飛んでこないとも限らない、適当な挨拶を残すと、銀乃介は居間を出た。
「しっかしアイツ、あんだけ呑んでも平常運転たあ……高坊にしてウワバミか」
 深夜一晩トイレの世話になっていた響の姿など、知る由もない銀乃介である。