手番が後手に回ってから既に数十分が経過している。
「形勢、どう見てます?」
「お前はどうなんだよ」
「強いていうなら後手かな」
「理由は?」
「……2九飛と打つのが詰めろになる……っぽいから」
「ガキみてえな理由だな」
「うっさいわね、生活かかってないんだからこの程度で良いの。そっちはどうなのよ」
「先手」
「一応聞いておくけど、理由は?」
「お前は後手持ちなんだろ?」
「そっちこそ正真正銘バカじゃない」
 いつものように言い合いながら解説の間を繋ぐ。
 モニターを横切る視聴者の反応で見る限り、手の解説に力を入れるよりも、いつも通りのやりとりを面白がってくれることがこの際は有り難かった。喋りに余計な意識を向けず、目の前の、未知の盤面を読み続けることができる。
 まず有り得ないとされてきた進行なのだ。先のことなどプロであってもまるで解らない。
「で、局面だけど、この歩。同銀だとどうなるかな?」
「2二歩やら3三歩って感じじゃねえのか」
「結構うるさくなりそうかな、いやな歩だから払っておきたいけど」
「なら同金としてみるか? こういう形も嫌いじゃないだろ」
「あまりにも非常手段って感じだもん。こんなの、外の勝負でいきなりは指せないでしょ」
「老けやがって……見てる人知らないだろうから一応解説しとくけど、コイツ、昔はこういう変態臭い手ばっか指してたんだよ。金とか銀を盛り上げて盤面をグチャグチャにしていく顔面受け将棋」
「やめてよ。せっかく表に出してないんだから」
「あんまり泥仕合が多いから、ついたあだ名が〝泥かぶり姫〟。当時の棋譜見れば一目で解るけど、とても女の将棋とは思えねえよ。マジでオッサンみたいな力将棋」
「やめてってば」
 ――後3三銀――