七
         七の一

 七月を新人王戦準々決勝の白星で締めくくると八月も順位戦の白星から幸先良く始まり続く王竜戦本戦準決勝。
 ここまでくれば洒落や冗談ではなく現役高校生棋士によるタイトル挑戦の可能性が出てきたと、俄に主催新聞社もざわめきだし、挑戦者となった際にDVDに編集して販売するのだという、皮算用にも程があるドキュメント映像の撮影班が張り込むようになっていた。
 対局相手の吉川元春八段は一組一位、予選決勝では小寺二冠を破るなど波に乗っており、今期順位戦はB1級で戦っているが昨年はA級に在籍していた三十代の指し盛り、間違いなくトッププロの一人である。同じくB級1組で順位戦を争う銀乃介からの前情報では『こういう九割方A級のオッサンを蹴落とせないと上に行けなくなる辺りがB1とB2の差』とのことである。
 裏を返せばここで吉川を喰えるのならA級にも力の差などないということ、老いた師匠をそうそう待たせておく訳にもいかないだろう――と、自身にハッパをかけて望んだ勝負は後手番を引き一手損角換わりを採用、穴熊に玉を落としてから相手矢倉をペリペリ剥がして攻略し、一五一手での勝利。トッププロを相手に、もう飛車振らなくても良いんじゃないかな、と思えてしまうほどの完勝だった。
 夏休みに入ってからというもの、将棋のことだけを考えられる環境がこれほど有難いとはと自分で戸惑ってしまうほどの絶好調で、近頃の響はまるで負ける気がしない。