Neetel Inside 文芸新都
表紙

魔法の本
まとめて読む

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 ある中学校の夏休み、一人の少年は宿題をしていた。
彼は長期休暇の宿題は早めに終わらせるタイプの人間だった。
宿題の一つである読書感想文に取り掛かるため、図書館へ出かけた。

 少年の家の近くに、歩いて10分ほどの距離で市立図書館がある。
少年はそこへ歩いてやってきた。
特に読みたかった本は無かったので誰かの意見を聞こうと、受付係と思われる男性に声をかける。
「お忙しいところすみません。何かお勧めの本はありませんか。」
「君が読むのかい?この時期、読書感想文か何かかな。感心だね、本は好きかい?」
「はい。」
「そうか、それはいい。僕も本は結構読む方でね。」
そういうと、男性は少しの間あごをさする。おそらく物を考えるときのクセなのだろう。
「お勧めの本か・・・。最近読んで面白かったのは、○○○っていう本かな。棚番は・・・えーっと」
今この男性が言った棚番と言うのは、この図書館の本棚一つ一つについている棚番号の略称のことだ。
ジャンルごとに分けられていて、それがパソコンに入力されているので本を探すのに便利だと思う。
「あったあった。234-1だね。」
「ありがとうございます。」
「うん、どういたしまして。あ、貸し出しもここでできるから。」
「はい。」
そこで会話は終わり、少年は本棚の方へ歩き出した。

 少年は棚番234-1をさがす。
「233-3・・・233-4・・・233-5・・・あった、234-1」
234-1の本棚は、他の本棚に比べて幾分か古ぼけていた。
少年は、先の男性に教えられた本の題名を思い出しながら本を探す。
一番上の段から探して言って、3段目位に少し目立つ本を見つけた。
取って手に持ってみると、その本は傷一つなかった。
他の本は若干煤けている中、その本だけ新品のようだった。
なんとなく、少年はその本に惹かれた。
男性には悪いが、自分にとってはこちらの方が興味がある。
これを借りよう。そう思った少年はその本の中身も見ず、そのまま受付へと向かった。

 「あの・・・」
「ん?あぁ、さっきの君か。読みたい本を見つけたみたいだね。」
「すみません、おすすめされた本も興味があったのですが、この本を読んでみたくて・・・」
「いやいや、いいんだよ。人に選んでもらうより、自分で選ぶ本の方がいいだろうしね。
図書カードはもってるかい?」
「はい、あります。」
そういうと少年はカードを差し出す。
「うん。確かに。」
そういうと男性は、早速貸出の手続きをしてくれたようだ。
「はい、来月までには返してね。」
「ありがとうございました。」
「読書感想文、頑張ってね。」
「はい。」

 帰り道。
少年は借りた本の表紙を眺めながら歩いていた。
表紙と言っても、ほとんど何も書いていない。
先ほどは一瞬見ただけでこの本をなんとなく借りてしまったが、タイトルすら知らない本である。
内容が無いようであれば困る、と思い多少不安になった。
パラパラ、と敵当にページをめくると、
「?」
その本には何も書かれていなかった。
疑問に思った少年は、1ページめからしっかりと見てみる。
表紙の裏、ページを開いてすぐの場所にはこう書かれていた。
  魔法の本  
少年はわけが分からず、図書館にもどってこの本について訊ねてみようか、
とも思ったがすでに家の目の前まで来てしまった。
今日はもう薄暗いし、また明日にしよう。
少年はその日、普通の生活を送った。

     


 朝。
ほぼいつも通りの時間に起きた少年は、顔を洗いに洗面所に行く。
洗面所に行こうとドアを開けると、なぜか廊下に本が一冊落ちていた。
昨日図書館で借りた本だ。
何故ここに?と思ったが、妹がいたずらしたのだろうと深く考えず本を拾い洗面所へ行く。
少年が洗面所で顔を洗っている途中、終始何かに見られているような視線を感じていた。
が、洗面所は狭い。少年が一人入れば、隠れるスペースなどほとんどないだろう。
「気のせいか。」
一人つぶやく少年は居間へ向かう。本を洗面所に置き忘れて。

 昼。
朝食を食べ終えた少年は、特にすることもなかったのでパソコンをつける。
起動時間が長く、パソコンがガーガーガーと必死に頑張っている音が聞こえる。
宿題はすでに読書感想文以外終わっている。
と、ここで少年は自分に対して疑問をもった。なぜ読書感想文をやっていない?
そういえば、と洗面所へ本を取りに行こうとし、部屋のドアをあける。
部屋の前には本が一冊落ちていた。
(妹か・・?いや、妹はまだ夏休みに入っていない。今日は終業式のはずだ。なら、誰が?)
一人考えても答えは出ない。結局誰の仕業か分からないまま、本を拾い部屋へ戻る。
そして、机に座りなおしオンラインゲームを起動させる。
読書感想文を終わらせていないことも、昨日図書館へ本について訊ねようと思ったことも忘れて。

 妹が帰ってきた。
ネットゲームに夢中になっていた少年は、家のチャイムが鳴る音で現実にもどってきた。
もうゲームを始めてから3時間も経過していた。そろそろやめようと思い、パソコンを切って玄関へ向かう。
「おかえりー。」
そういいながらドアを開け、妹を家に入れる。
「ただいまぁー。おやつはー?」
「台所。兄ちゃんの分もあるから、あんまり喰うなよ。」
「分かったー。」
妹はランドセルを放り投げつつ小走りで台所へ向かう。
「ランドセル投げんなー。」
「今度から気をつけるー。」
少年はため息を一つつくと、自分も台所へ行く。
注意はしたが、あの妹が自分の分を取っておいてくれるとは思えない。
早く食べねば無くなってしまう。
案の定、少年が台所についた頃には半分以上の菓子袋が空いていて食い荒らされていた。

 妹はおやつを食べた後、友達の家に出かけるそうだ。
妹は説明が苦手で話が長いので、半分くらいしか聞いていなかった断片的な情報をかき集めた結果こうなった。
「夕飯までには帰ってこいよ。」
「うん。」
妹は家を出た。俺は何をしようか。
そういえば、本。あの本はどうなったんだったっけ。読書感想文書かなきゃ。そう思い、部屋へ戻る。
机の上に置いてあった本を手に取り、ページを開く。
明らかに妹の字で、
『お菓子をたくさん食べたい』と書かれていた。
なぜあいつは人の本に勝手に自分の願望を書くのだろうかと思う。
(これ図書館のものだけど大丈夫かな・・・)
と思いながら、消しゴムで消す。
・・・・消えない。
どうやらボールペンで書いたようだ。ありえない。
自分と血がつながっていることが信じられないくらい大雑把な性格だ。
軽くキレかけていた少年は、気を落ち着かせようと本を机に置いた。
ページが勝手にめくれ、1ページ目となる。そこで少年はふと気がついた。
昨日何も書かれていなかった表紙の裏に、文字が書かれている。
妹か?とも思ったが、明かに妹の字ではない。パソコンか何かで書かれたような、完成された文字。

*この本に書かれたことは“あること”を除き現実になる

「・・・・?なんだ、これ・・・」
誰がこんな手の込んだいたずらを?
妹はこれを見て書いたのか?
魔法の本、と言うのはまさかこれのこと?
この本はいったい何なんだ?
次々と疑問が浮かび、次の瞬間、すべてが吹き飛んだ。
目の前の本に、字が浮かび上がってきたのだ。

*この本を必要としないものは、この本に関するすべての記憶をなくす

(なんだ、これは。)
少年は焦る心とともに、これまでにない高揚感を感じていた。
少しずつ冷静さを取り戻していくと、あることをしてみたくなった。
この本に願望を書いてみる。
もし違ったとしても、自分に害はない。シャーペンで書けば消すこともできるだろう。
軽い気持ちで、少年は『自分の持っているパソコンの性能が良くなる』と書いた。
さっそくパソコンの方を見る。前ととくに目立った違いは見当たらない。
起動してみる。音も立てずパソコンが起動された。
まさか、と思いオンラインゲームをつける。
驚くほどスムーズにキャラが動く。
少年は疑問に思った。この本は何なのか。
しかし、答えが出るはずもない。
少年は考えることをとりあえずやめる。この本に書かれたことは現実になる。それでいいのではないか?
そう思うと早速少年は次の願いを考え出した。
『誰かが俺の読書感想文を代わりにやった』
机の前のカバンから読書感想文のプリントを取り出す。
そこには、すでに書き終わってあるプリントがあった。
宿題がすべて終わった満足感で満たされる。
それから、新しくなったパソコンでネットサーフィンをし、その日、充実した生活を送った。

     

早朝。
少年は母親に起こされ、目が覚めた。
「お母さん、妹と一緒にちょっと出かけてくるから。戸締りよろしくね。」
「あぁ・・・うん。」
敵当に返事をし、起き上がる。
「じゃあね。」
「ん。」
少し遠くで、車のエンジン音がする。もう出発したようだ。
家に一人になる。机に向かう。
本を手に取り、昨日のことが夢ではなかったことを確かめる。
(これがあれば僕は何でもできる・・・)
しかし、ここで問題が一つ発生する。
昨日、妹もこの本に願望を書いていた。そして、現実となった。
それではまずい。自分だけのものにしたい。
少年は、本にこう書いた。
『○○(少年の名前)以外のものは魔法の本に触れることすらできない』
これでいい。
(・・・次の願いはどうしようかな)
考えていると、ノートに変化が起こった。
先ほど書いた願いが消えている。
「あれ?おかしいな・・」
もう一度書いてみる。
『○○(少年の名前)以外のものは魔法の本に触れることすらできない』
しばらく眺めていると、また消えた。
なんで?と思った時、表紙の裏に書かれていたことを思い出す。

*この本に書かれたことは“あること”を除き現実になる

おそらく“あること”とは本に直接関係することなのだろう。
他にも、
『この本は○○(少年の名前)以外には見えない』
『この本に願いを書き込むことができるのは○○(少年の名前)だけ』
など書いたが、すべて消えた。
この本の隠し場所は自分で決めるしかないようだ。
(とりあえず隠し場所は後でいいか。)
今は、新たな願いを書き込もう。
『一人暮らしになる』
また前のように妹に書き足されても困る。
すこしさびしくなるかもしれないが、あまり家族に対する執着はなかった。
・・・プルルルルル
遠くで電話の音がする。一階の電話が鳴っている。
とりあえず出るか、と電話のもとへ向かう途中、胸が苦しくなった。
なんだ?と眉をひそめるが、理由は見当たらない。とりあえず電話に出る。
「はい、もしもし。」
「○○(少年の姓)さんのお宅ですか?」
「はい。どちらさまでしょうか。」
「息子さんですか?
 落ち着いて聞いてください。
        あなたのお母様とその娘様が、
             交通事故に遭われました。」
「・・・・え?」
「落ち着いてください。
 とりあえず、□□病院へ来てください。大至急、お願いします。」
「は、はい・・?」
「受け付けの者に名前を言えば案内してもらえると思いますので、それと・・・」
突然の出来事に頭が回らなかった。母が?妹が?轢かれた?
執着はない、と自分では思っていたが
どうやら自分で思っていたよりも随分家族は自分にとって大切なものだったらしい。
動悸が激しくなる。病院側の説明も、まともに聞こえない。
「・・・・なので、早急に病院へ・・・聞こえてますか?」
「え・・?あ、はい・・・。」
「それでは、早急に病院へ来てください。」プツッ・・ツーツーツー
(・・・・・どういうことだ?)
ようやく頭が回ってくる。なぜ母が、妹が轢かれたのか。本当に事故なのか。
母、妹が轢かれた理由。最悪の理由が、頭に浮かんでくる。
『一人暮らしになる』
先ほど本に書いた願いが、頭から離れない・・・。

 昼
病院へ行くと、病院独特の不思議な臭いにつつまれる。
受け付けの女性に保険証を見せ名前を告げると、薬臭い部屋に案内された。
そこには、30台後半くらいだろうか、馬のような顔の男性が立っていた。どうやら馬は医者らしい。
「すいません、○○です。母は・・・?妹は・・・?」
「あぁ、君が息子さんか。
 君のお母さんは今とても危険な状態でね。
 正直なところ、治るかどうか・・・」
驚いた。母の死が迫っていることに対してではなく、母に死が迫っていることを分かっているのに冷静な自分が。
一つ疑問が浮かぶ。妹は?
「あの、妹は・・・。」
「あぁ・・・。
 非常に残念なんだが、この際はっきり言った方がいいと思う。
 事故に遭った時。打ちどころが悪かったのか、
       ・・・・・・即死だったよ。
 頭蓋骨が陥没していて、脳が圧迫されていた。
 あのまま生きていたとしても、何らかの障害を持つことになっただろう。」
この馬男の言っていることが頭に浸透しない。
今聞いた言葉を何度か反芻した。
何の話をしているんだ?―妹の話。
妹はどうなったんだ?――事故に遭った。
今妹はどこにいるんだ?―――もういない
妹は?―――――――――死んだ。
「あ・・・
 僕の・・・せいだ・・・」
「ショックだろうが、落ち付いて聞いてくれ。まだお母さんは生きている。
 確率は低いが、何とかしてみたいと思う。君も希望を捨てず
「ぼくのせいだっ!!!!」
「!?」
「僕が!僕が一人暮らしなんて!書いたから!書いたから!こんなことに!
 僕が、僕が殺したんだ!うわぁあ!!」
「ちょ、ちょっと君!大丈夫か!君!だれか!鎮静剤を持ってきてくれ!」
「ああああああああああああああ!!!!!!」
少年は混乱した様子で暴れる。
看護師や医者が何人か集まり鎮静剤をうち、ようやく取り押さえることに成功した。
少年は虚ろな目で、
「僕のせいだ・・・僕のせいだ・・・」
と繰り返していた。

       

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Neetsha