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015_8000kmの小さな奇跡

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8000kmの小さな奇跡

 2011/06/23 14:18 千葉県茂原市

 椅子取りゲームをしていた園児たちは、ゲームが終わっても、興奮してはしゃいでいた。あちこちに笑い声があふれる中で、保母さんは園児たちに向かって声を上げた。

「はーい、それじゃーねー、これからお昼ねしますからー、みんなお布団を出してきましょー」

 はーい、と答え、園児たちは教室の隅にある収納から小さなマットを出して並べていく。保母さんは準備のできた子から、おなかにかけるバスタオルを配っていった。

「それじゃー、おやすみなさーい」
「おやすみなさーい」

 横になった園児たちは、おやすみのあいさつをして、目を閉じていく。すぐに寝息を立てる子もいれば、寝つけずにもぞもぞと動く子もいた。薄く目を開いている雄太は、眠れない方の子どもだった。



2011/06/22 22:25 San Francisco, California

(** 日本語訳 **)
 小学1年生のジムはテレビゲームに夢中になっていた。母親が何度も「早く寝なさい!」と注意していたが、そのたびにジムは「いまやめる」とごまかしてゲームを続けていた。

「あれ? まだ起きてたのか、ジム」

 仕事から帰ってきた父親が、驚いた様子で言った。

「いま、やめようとしてたところ」
「うそばっかり! さっきから、やめるやめるって何回目かしら!」
「こんどは、本当にやめるところだったの!」

 口をはさむ母親にジムは言い返した。父親はジムの頭に手を置いて、真面目な顔をしてみせた。

「こら、ジム。夜更かしばっかりしてると『(※)ドゥー・ドゥ・ムー・ムー』が来るぞ。それでもいいのか?」
「やだ! やーだ!」

 ジムは慌ててゲームのスイッチを切ると、窓辺に飾られたセント・ポーリアの葉っぱを一枚むしり、自分の部屋へと走っていった。

 (※)ドゥー・ドゥ・ムー・ムー
 毛むくじゃらの手が複数集まり、球状になった怪物。その姿を見た者は無数の手によって全身を引き千切られるとされ、緑の葉を嫌うとも伝えられている。


Jim who is First Grade of elementary school, is absorbed in playing the TV-GAME. "It's high time to go to bed!". His Mom told him again and again, but he only answered "I stop playing, just now", every time her saying. Naturally, he didn't stop to play the game.

"Oh my God! Are you still up, Jim?"

His Dad comes back home, and he says with surprising.

"I stop playing, just now"
"Don't tell a lie! 'I stop playing','I stop playing'. How many times do you say?"
"I'll surely stop playing now!"

Jim retorts, to his Mom cutting in. Dad laid his hand on Jim's head, and he makes the serious face.

"Hey Jim, If you stay up late very often, "Doo-do-Moo-Moo" is coming. Is that OK?"
"No! No way!"

Jim turns off the TV-GAME switch quickly, and run to his room, nipping a leaf of saintpaulia by the window, on the way.



 2011/06/23 14:33 千葉県茂原市

 雄太は薄目を開けて、隣ですやすや眠っている大介を見ていた。お昼寝の時間に眠れたことのない雄太は、すぐに眠れる大介が不思議で仕方がなかった。
 あれだけ騒がしかった教室は、すっかり静かになってしまって、動いたり遊んだりしたら怒られてしまいそうだ。「起きてる人、手ーあげてー」と言いたくなったけれど、怖くなってしまってできなかった。雄太はあきらめて目を閉じた。

(いやだなあ。死ぬまでずーっと、こうやって寝たふりをしなきゃいけないのかなあ)

 やっぱり今日も、ぜんぜん眠れそうにない。いつものように、雄太はいろんなことを考え始めた。

(こんなに静かなのに、僕には僕の考えていることがはっきり聞こえてる。どうしてみんなには聞こえないんだろう? いや待てよ、ほんとうは聞こえてるのに、聞こえないふりをしているのかもしれない。でも、それだったら、僕にもみんなの頭の声が聞こえるはずだよなあ)

 雄太の頭はどんどん冴えていった。



2011/06/22 22:38 San Francisco, California

(** 日本語訳 **)
 ベッドに入ったジムは、部屋の隅の暗がりに何かがいるような気がして動くことができなかった。もしも『ドゥー・ドゥ・ムー・ムー』だったら、気付かれたらおしまいだ。

(夜のお祈りをしないで寝ちゃったから、何か来ちゃったのかな。神様、お願いです。これからはいい子になります。夜更かしもしません。お父さんやお母さんの言うこともよく聞きます。だから助けて下さい。神様、聞こえていますか。神様)

 ジムの口の中に唾が溜まっていった。大きな音がしそうで、飲み込むことができなかった。


Jim in the bed feels that there is something in the corner of the room, so he can't move at all. If it is "Doo-do-Moo-Moo", Must not be noticed.

(I laid me down without praying, so may anything be coming? Please the Lord. I'll be a good boy. I'll not stay up late. I'll obey Mom and Dad. So please, please help me. The Lord, Can you hear me? The Lord?)

Jim gets much saliva in his mouth. But he can't swallow them, because he thinks that it makes a big sound.



 2011/06/23 14:39 千葉県茂原市

(みんなは僕みたいに考えたりするのかな? みんなは眠れるのに僕だけは眠れない。もしかしたら、僕はみんなと違っていて、心の中で誰にも聞こえない声を出せるのは、僕だけなのかもしれない)

 雄太はなんだかわくわくしてきたので、思い切って寝がえりをうち、斜め上にいる千秋の方に顔を向けた。千秋は雄太の好きな女の子だ。頭をこちら側に向けている千秋も、大介と同じようにすやすや眠っていた。
 その時、雄太は、千秋の向こう側にいる翔が、目を開けてこちらを見ているのに気付いた。ほんのしばらく目が合って、すぐに翔は反対を向いてしまった。雄太はどきどきしながら、翔の後頭部を見ていた。

(眠れないのは、僕だけじゃなかった。だったらやっぱり、他の人も僕みたいに考えているのかもしれない。みんなじゃないかもしれないけど、きっと何人かは僕と同じ人もいるんだ。幼稚園だけじゃなくて、この町ぜんぶとか、千葉県ぜんぶとか、日本中とか、世界中とかなら、絶対いるに違いない)



2011/06/22 22:41 San Francisco, California

(** 日本語訳 **)
 このままだとやられてしまう。そう思ったジムは思い切って、部屋の隅の暗がりを睨み付けた。すると、たった今まで、そこにあったはずの気配はすっと消えてしまい、あとにはただ、薄暗いこと以外はいつもとなにも変わらない、自分の部屋があるだけになってしまった。ジムは自分がとても強くなった気がした。

(夜更かししてても、ぜんぜんいい子じゃなくても、それでも『ドゥー・ドゥ・ムー・ムー』は来なかった。でも、神様も来なかった。もしかしたら、『ドゥー・ドゥ・ムー・ムー』も神様も、どっちもいないのかな? どっちも嘘なのかな?)

 ジムの心臓がどくんと鳴った。思わずジムは、暗い自分の部屋を見回す。さっきまでの恐怖はこれっぽっちも感じなかった。
 ジムはセント・ポーリアの葉をつまんだ手をベッドからそっと出してみる。やはり、ジムの手に触れるものは何もなかった。

(どうしよう、本当になんにもないのかも。『ドゥー・ドゥ・ムー・ムー』も神様もいない。僕のたましいは誰にも狙われていなくて、その代わり、誰にも守られていないんだ。僕だけが知っていることは、僕が忘れたらなくなっちゃって、どこからもなくなっちゃうんだ)


If this goes on, I'll be torn to pieces, Jim thinks. So he dares to stare darkness, in the corner of the room. And then, the sign which was looming around here just now faded away, and there is only the usual his room except difference of darkness. Jim feels that he has become very strong.

(Though I often stay up late, and I'm not a good boy, "Doo-do-Moo-Moo" doesn't come. Instead, The Lord doesn't come too. Maybe, "Doo-do-Moo-Moo" and The Lord don't exist. Are both "Doo-do-Moo-Moo" and "The Lord" fictional character?")

Jim is startled at his thought. He looks around the dark room in spite of himself. He felt fright until a while ago, but now, there is no fright at all.
Jim takes a hand having the leaf of saintpaulia, out of the bed. Even so there is no one who touches his hand.

(Oh, no, there is nothing at all. Neither "Doo-do-Moo-Moo" nor "The Lord" is in anywhere. My soul is not targeted by anyone, but instead, my soul is not preserved by anyone too. If I forget what I know only, it vanishes from everywhere.)



 2011/06/23 14:43 千葉県茂原市

(でも、僕は他の人の心の声が聞こえない。だから誰かが本当のことを言っても、嘘かもしれないって思うかもしれない。だったら、僕が本当のことを言ったとしても、他の人には嘘だって思われるかもしれないってことだ。うわー、なんか嫌だなー。みんな、ひとりぼっちじゃないか)



2011/06/22 22:43 San Francisco, California

(** 日本語訳 **)
(もし僕が神様を見たり、『ドゥー・ドゥ・ムー・ムー』を見たとしても、きっと誰も信じてくれない。僕も、他の誰かが、神様や『ドゥー・ドゥ・ムー・ムー』を見たと言っても、きっと信じない。僕には見えなくても、その人には見えたかもしれないのに。うわー、なんか嫌だ。みんな、ひとりぼっちみたいだ)


(If I see the Lord, or "Doo-do-Moo-Moo", maybe no one believes it. The same way, maybe I don't believe it that anyone sees "the Lord" or "Doo-do-Moo-Moo". Even if I can't see, but someone may be able to see. Oh, No! As if we are alone.)



2011/06/23 14:44 千葉県茂原市
2011/06/22 22:44 San Francisco, California

(こんなこと考えてるの、世界中で僕だけなのかな)
(I am the only boy who is thinking this, in the world.)

(でも、もしかしたらこの瞬間に、まったく同じことを考えてる人がいるかもしれない)
(But, maybe there are others who are thinking the same in now.)

(だったら……すごいな)
(Then... that's great.)



 2011/06/23 14:50 千葉県茂原市

「はーい、みんな、起きましょー。もうすぐ、お迎えが来ますからねー。おかたづけをはじめてくださーい」

 保母さんが子どもたちを起こし始めた。バスタオルを丸めている雄太のところに、翔が近づいてきた。

「雄太、さっき起きてたろ」
「うん、起きてた」
「俺も起きてた」
「そっか」
「片づけようぜ」
「おう」

 雄太と翔はバスタオルとマットを片付けると、連れだって園庭にかけ出していった。



2011/06/23 07:23 San Francisco, California

(** 日本語訳 **)
 ジムは顔を洗っていた。夏休みになってから、こんなに早く起きたのは初めてだった。

「あら、もう起きたの」

 物音に気付いた母親がバスルームにやってきた。

「うん、目が覚めちゃったから」
「まあ、珍しい」

 からかう母親にジムは軽い笑顔を返した。その大人びた態度に、母親は少し戸惑った。

「朝ごはん食べる?」
「うん」
「じゃあ、用意するわね」

 キッチンに足を向けた時、ジムの小さな変化は、母親の頭からすっかり消えていた。ジムも顔を拭いて、キッチンに向かった。


Jim is washing his face. It's first time that he gets up early, since the summer holiday started.

"Oh dear, you're up early today."

Mom hears sounds, and comes to the bathroom.

"Year, I woke up by myself"
"Oh! It's rare!"

She is kidding him, and he answers smiling to her. She feels a bit of confusion about his doing.

"Do you eat breakfast?"
"Yes."
"OK. I'll make it."

When she turns to the kitchen, she forgets all about his changing. Jim wipes his face, and goes to the kitchen too.



 これは小さな奇跡の物語。
 This is the little miracle story.

       

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