Neetel Inside 文芸新都
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きみみしか
第三話 キチガイ病院

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 キチガイどもがぞろぞろと森の病院に向かって歩き出すとわしたちもそれにしたがって歩いた。病院への距離はさほど遠くない。だが、しかし全然直線に歩けない連中もいたね。そんな連中は雇われた村人たちが支えながら連れていった。支えている連中の顔は引きつっていたね。キチガイどもはなんせヨダレや鼻水をだらだら流してたから。
 見物人たちの反応は様々だったね。興味津々で見るものも入れば、顔を伏せているものもいたし、野次を飛ばす者もいた。
「やい、キチガイどもめ。さっさと失せろ」
 などとね。
 わしはずいぶん不思議そうにその光景を見つめとった。道の真ん中をおぼつかない足取りで歩く豪勢な服を来たキチガイとそれを支える間に合わせの服を来た村人。そしてその光景を見ているこれまた貧相な服を着た村人たち。なんとも珍しい光景だと思うよ。わしも長く生きているが、これが最初で最後じゃった。 
 キチガイどもとわしたちを合わせると何百人にもなった。だから移動し始めるとすごい砂埃が起き始めたよ。そのせいでキチガイどもの一張羅はだいぶ汚れてしまった。だいたいキチガイにいい服を着せるなんて猫に小判だよ。まったく。
 森のほうに入っていくといつの間にか大きな道が出来ていた。立派なもんだった。だが、流石にその時は舗装はされてなかった。
 
 長い時間をかけなんとかキチガイどもとわしたちは病院に着いた。
 初めて病院を見たときは腰を抜かしたね。なにせ四階建ての洋館で化物みたいに大きかった。完全に不釣合だった。陰鬱な森の中にぽつんと大きな洋館がおったているんだからね。村の他の建物は粗末なものだったし……。それに薄気味が悪かった。夜なんかになると梟なんかが止まって実に異様だった。

 病院の前には白衣を着た医者共が出迎えに出ていた。笑顔でね。また、その笑顔がこれまた不自然な作り笑いだった。当然かもしれんね。なんせ連中は帝大でも少数派だったらしいからね。ようするに変わり者の集まりだったわけだ。当然人間関係の作り方など心得てない。まあ、キチガイ相手にはそんなもの不必要かもしれんが……。
 そのうち一番年上らしいの恰幅のいい男が出てきた。院長だ。院長は病院前の大きな広場に立っているキチガイどもに向かって話を始めた。
 話の内容は正直言ってよく覚えとらん。なにせ当時まだ小さかったからね小難しい院長の話など聞いていられるわけはない。というかわし以外のものも皆聞いていなかったと思う。キチガイは聞いても意味が分からないし、村人たちもそんなもんには興味がなかった。だから話が始まった時からばらばらと帰り始めていた。
 思うとこのことは我がふるさとキチガイ村でも珍しくまともな光景だったと思うよ。そんなもんだろうこういう場の堅苦しいの話なんて。誰も聞いちゃいないんだ。一種の儀式だな。これは。
 話のせいで意識は急速に閉じて入ってしまった。立ちながら別の事を考えていた。

 つまらん話が終わった。わしは意識を取り戻した。なにか面白いことが起こるんじゃないかと思った。それはその場にいる村人たちの殆どが望んておったんじゃないかと思う。それまではあまりつまらんかったからのう。
 だが、しかし何も起こらんかった。普通にキチガイどもは病院に入って、お終い。
 村人たちはぶつくさ文句をいいながらみな家へと戻っていった。

 思うにみんなが望んでおったことはキチガイをボコボコにして追い出そうということだったのだ。キチガイどもの一人でも暴れ始めれば喧嘩をおっぱじめようとしたのだ。
 なにせキチガイはわずか三十人ほど。頭もおかしい。医者は五人ほど。それも学問しかしてないから力は弱そうだ。一方村人は数百人はいた。圧勝だよ。誰がどう見ても。
 まあ、初日はキチガイじみたことはなんにも起こらんかった。だが、これからわしたちはいやだというほどキチガイじみたことを経験させられる。いや、経験するかな。
 だからこの時はまだだいぶ幸せだった。今考えるとだがね。



       

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