ベッドから七海を引きはがそうとするところで、玲一はあることに気がついた。
レコーダーは先とは違う色で点滅している。
「――お前、何を録音している……?」
「……ぇっ?」
こんな噂を聞いたことがある。
沖村玲一ボイス、ワンテープ五百円。
いや、ギャグではない。体育館裏でそんな取引があるという。
内容は歯牙にもかけていなかった。今日までは。
しかし、実行犯が身内であったのなら話しは別だ。
「まさか、お前。俺の声を……?」
ダッシュでベッドから飛び出していく七海。あろうことか、既に制服着用済みだった。
「確信犯かっ!」
もう朝飯を食っている暇などない! 今すぐ七海を追い掛け、噂の真相を確かめなければならない!
七海の背中を廊下越しに見る。
「屋上……だと?」
あろうことか、七海は上へ上っていった。
この部屋は13Fですぐ上が屋上になっている。逃げるなら下だろうに何故屋上へ行ったのだろう。玲一は疑問を持ちながらも屋上へと駆け上がった。
「七海!」
開け放った入り口からは冷たい風が吹きつけてくる。
一瞬目を細めた玲一は七海の姿をすぐに見つけた。
「ば、ばかな真似はよせ!」
七海はフェンスを乗り越えようとしていた。正気の沙汰ではない。
「バレたらもう死ぬしかないっ」
「はぁ? 何いってんだ。もうやらなければいい話だ。それで許してやるから!」
「本当?」
「ああ、本当だ。だから早く下りてこい」
「じゃあ最後に愛してるって言って……」
「はぁ?」
「言ってくれなきゃもう死ぬしか……」
「ばか、やめろっ。愛してる、愛してるから早く下りてこいって!」
玲一はようやく緩慢な動きで下りてきた七海を引っぱたこうかと思ったが、どうやら様子がおかしい。
「……フフ」