「違います。これがその力の一部なのです」
玲一はこういった話しが嫌いであった。
超能力とか、超常現象とか、そんなものは人を翻弄するだけの紛い物に過ぎない。
「お前が何を調べたのか知らないけどな、だから俺にどうしろっていうんだ?」
香織はしばらく逡巡した後、小さく漏らした。
「先ほどお伝えしました私が行っていた儀式『カワリノミコト』はその名の通り、
『代わりの命(みこと)』というものです。これは本来、人為的な転生術として信じられていた巫術(ふじゅつ)に近いものです」
カワリノミコトは村に起こる災厄や疫病を取り払うのではなく、
巫女や長老といった村に必要な人間の命の代わりを作り上げる儀式だったという。
「そして、この代わりの命は既に生きている人間から取り上げるのです。
その過程で被術者は、あなたのように見えざるモノが見える状態へ移行します」
「はは、つまりもうすぐ死ぬぞ、気を付けろって?」
「有り体にいえばそうです」
玲一は笑うしかなかった。だから何だというのだ。
「まぁそれで、命を取り上げられるとどうなるのさ」
「――死にますよ。ですが、通常の死ではありません。
これは、カワリノミコトの儀式でしか得られない特殊な状態です」
「…………」
玲一はいつの間にか目の前に置かれてあったティーカップを一息に飲みほした。
「あなたの命は長くありません。あなたの命を我がものにストックしようとしている輩がいるのです」
「ちょっとまった。その話しが馬鹿げてるかどうかはさておいて、そっちはどうなんだ?」
見えるかといって出したのなら自分も見えるに決まっている。
香織も玲一と同じということではないか。
「簡単です。私は自分の魂(ミコト)をコントロールできますから取られることはありません」
こいつはイカレてるのか? そう思ったとき、香織の後ろに何かが見え始めた。
「人間は死ぬと、二十一グラム軽くなるそうです。医学的にも立証されているこの事実、その実態は解明されていません」
うっすらと、しかし確かに見えるそれはゆっくりと人型になった。
「……あっ、あぁ――」
玲一は素早く席を立ち、レジに札を投げて店を出た。
とにかくこの女は危険だ。玲一はもう一度その影を見ようとしたとき、香織は背後にいた。
「この話し、信じますか?」