そんな問いかけをしてきた。
「あ、あんなもの見せられたら信じるしかないだろ……俺の錯覚じゃなければな」
「賢明です。周りをよく見て下さい。あなた以外に見えてる素振りのある人はいますか?」
もう一度、香織はそれを『顕現』させた。香織の目がうつろになり、後ろにもやのようなものが立ち上がる。
確かに道行く人間は玲一たちを眼中におさめもしない。しかし、それはぐうぜんジャナイノカ?
「も、もうやめろ。それがなんだってんだ。所詮はお前の言う二十一グラムの何かとかいうんだろ」
人は死ぬと直前と比べて二十一グラム軽くなるという。それは――。
「そうです。これは所詮二十一グラムのミコトです。剥離している状態だからこそこういう使い方もあるということを知っておいてほしかった」
白い塊は確かな形と意志をもって香織の後ろに着いていた。いや、憑いているというべきか。
玲一は目の前の事実を受け入れたくない思いで必死だった。
「死んでいなければ、また会いましょう。あなたはもう人外の入り口に入ってしまったのだから」
香織は義理はないと言った。
確かにそうだった。こんな馬鹿げた話しをあえてする馬鹿がどこにいるだろう。
「私は馬鹿のようですね。ミコトの声に耳を傾けるのです。そうすれば、あなたの後ろにいる霊が最期の道を指し示します」
香織は微笑みゆっくりと振り返り、去っていった。もう週間雑誌を買いに行く気力はない。
世界で一人、玲一はその後ろ姿をいつまでも見ていた。