Neetel Inside 文芸新都
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口先々
1.矢場

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 やばい。本当にやばい。マジでヤベー。いと矢場し。とにかくやばいの。
どれだけ矢場いのかは伝わったとして、何故矢場いのか?何が矢場いのか?この人の色んなアレは大丈夫なんだろうか?そんな疑問を抱かれてしまうのは当然だろうし、これから順を追って話をしていく必要があるのは十分に、もとい、十二分に理解している。
しかしそれは俺が親切な訳ではなく、それを順に話をするという行為によって気持ちを多少なりとも落ち着けて頭の中を整理整頓し、これからの事を考えなくてはいけないから、必要必然であるからするのである。
取り乱しているようで根底はクレバーな男なのである。
自分ではそう信じているのだ。
これは天狗になっているとかナルシチズムとかそんな事ではなく、俺はクレバーだけれども、仮にクレバーでなかったとしても自分がクレバーだと思い込んでいればこう云った時に多少はクレバーな思考に頭が向くと云うかそんな感じ。
いや、そういう考えを持っている辺りがクレバーと断言してしまっても差し支えは無いような気がする。

 逆に自分はクレバーではないと思い込んでいた場合にどうなるか?
これは説明するまでもなく、例えば缶飲料を買おうとした時に100円玉をが自動販売機の下に転がり込んでしまった、等と云う些細なトラブルでも取り乱し、地面に這い蹲り手を自動販売機の下に無理矢理突っ込んでがりがりと地面を引っ掻いて爪は全て剥がれ落ち血まみれ、ハガレオ乳まみれ、這い蹲った時に一張羅のコートに犬の糞やおっさんの吐き捨てた痰が付着して台無しになり、それを傷だらけの手で触ったら破傷風なんかの恐ろしい事になって100円の為に命を落とす事になりかねないのである。
つまり、ある程度は自分の事を出来る人間と思って居た方が、できる人間のそれに近付い行動ができてハッピーになれるのだ。
だから俺は自分の事はクレバーで頭の回転が早く、騙されるより騙す側で、女にもどちらかというとモテて、なんつーか持って生まれた物とかプラスそれを抱いて成長してきた今の俺はなんつーか、イケてるっつーか、とにかく優れているつーか、そう思っているし、優れていると思って差支えが無い。と、思う。
俺のクレバーさはそれだけでなく、過剰に自分が優れていると思い込んで行動をすれば痛い目を見たりする事も理解しているので隙は無い。はず。
何で強気でクレバーな俺が、と、思うとか、はず、とか、そんな気弱な感じになっているかと云うと、今の矢場さが尋常でないからに他ならないのである。
ああ、マジでマジでいと矢場し。

 ヤバイって言葉は本当にヤバイ感じがするんだけれども、その語源は昔の縁日の射撃場の矢がぴゅんぴゅん飛び交うゾーンの名前が矢場、矢場いって流れで今のヤバイになったんだとか。
そこで矢を拾う女の人を矢場女と呼んだらしいんだけど、客は矢場女なんかに気を使わずにぴゅんぴゅん矢を撃つし、性格の悪いのなんかは失敗したフリをして矢場女に矢が飛んでいく様に撃っただろう。
矢場女の仕事環境やべえ。
実際に矢場女のケツに矢が刺さる事は珍しい事では無かったのだろうなあと、昔に思いを馳せてみる。そんな余裕は無いけれど。
矢場女。やばおんな。ヤバ女。矢場おんな。
ヤバ女と書くとなんだか根元が黒い痛んだ金髪をしていてシンナーで歯が半分溶けているような女が浮かぶのは俺だけかな。かな。
ああ、いかん、まただ。
普段なら俺だけではない筈と言い切るだろうけれど、今日は弱気にかな、かな、かなかな、なかなかかな、なかなかかなかなかな等と、そんな事は無かったとしても自分が極力恥を感じないで済むようなせせこましい言い方をしてしまっているんだ。
してしまっているんだ。
こういう時はすっぱりと言い切ってしまえばそんな事は無くても、聞いた人は「ああ、確かにそうかもしらんなあ」と感じるので、自信が無い言い回しをしてしまうのは俺が俺のやり方で渡って行くのにはいと矢場い兆候である。矢場い。矢場い。ヤベー。マジで。

       

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