Neetel Inside 文芸新都
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4.恋の花咲く飯田橋

昼過ぎに飯田橋の病院で由紀は車いすに座りながら語った。
「由紀ちゃん、女の子なのにシャツとネクタイをしてまるで制服みたいね」
「女の子だからおしゃれしたいですよ」
「でもレディースにそんなのある?」
「これ、兄さんのお古」
由紀は明の服で古くなったり破れたりして着られなくなった服を
高校の先輩に頼んで女性用に改造してもらった服に
明のお気に入りのネクタイをつけていた。
「彼氏の制服を着て原宿を歩くというのはあるけど・・・」
「私にとって一番身近な男性が兄さんでしたから…。」
その時、服を持ってくるキャリア風の女性がやってきた。
「はい、由紀ちゃん、できたわよ」
「水瀬先輩、ありがとうございます」
彼女の名は、水瀬可奈。中学高校と先輩として明と由紀の面倒を見てきた女性だ。
「水瀬先輩、先輩は将来どうするつもりですか?」
「ふふ~、この腕生かしてお針子さんにでもなろうかしら」
「いいですね、私なんかなりたいものになれないのがわかっているから?
「あら?どうして?」
「私、兄さんの妹に生まれてこなければよかったと思っています」
「どうして?あんなにやさしくて面倒を見てくれるのに?」
「それが嫌なんです。なんで兄と妹では結婚できないんですか?」
「由紀ちゃん、何言い出すの?」
「ははあ、分かった。由紀ちゃんは明くんのお嫁さんになりたいんだ」
由紀の顔が真っ赤になった。
「分かるわよ、でもお嫁さんというのは家事をこなさないといけないし
旦那さんのお相手も・・・あら、由紀ちゃんにはまだ早かったかしら」
由紀の顔はさらに真っ赤になり、身動きとれないありさまだった。
「そっか、でも兄と妹では結婚できない…。ん、そうだ!
ねえ、由紀ちゃん、明くん私がもらっちゃっていい?」
「ええ?!」
「ねえお願い、由紀ちゃん、明くん私にちょうだい!」
由紀はいきなり言われたことにパニックになっていた。
だがしばらくしてから由紀の口から意外な言葉が出た。
「先輩だったら・・・いい・・・ですよ・・・。」
「なあに?まるでいやいや持っていかれるみたい」
「いいんです。いきなりよその人に兄さんを持っていかれるくらいなら
先輩に持っていかれたほうがましです。兄さんをよろしくお願いします」
「はいはい」
次の瞬間、可奈はその場から消えた。

1時間後、可奈はシビックホールの玄関前で待ち伏せしていた。
「明くん!」
「可奈さん!」
明が呼びかける間もなく、次の瞬間可奈は明に抱きつき自らキスをしていた。
「明くん、今すぐこの場で私をお嫁さんにしなさい!いやとは言わせないわよ!」
「ちょっと、いきなりなんですか?」
「由紀ちゃんが結婚していいって、今日から私は種村可奈ね!」
明は一体何が何だか分からなかった。
「ねえねえ、届け出はどこ?すぐ届け出て帰るんだから」
「種村君?どういうことかね?」
「都築課長、私も何がなんだかさっぱり」
「課長さんですか、はじめまして、私本日から種村の家内となりました可奈と申します」
「なに?種村君結婚したのか、おめでとう」
「さっそく届け出をしたいのですが、窓口はどちらですか?」
「戸籍は三番窓口だが」
「課長!」
「種村君、ついに年貢の納め時だな、あきらめたまえ」
「課長、そりゃないでしょう」

こうして明は何が何だかわからぬままに可奈と結婚してしまった。
「可奈さん、本気ですか?」
「本気じゃなきゃこんなことできないわよ。今日から私が明くんのお嫁さんだからね!」
「覚悟はできているのか?一生添い遂げる」
「あたりまえでしょう!あ、新婚初夜がまだだったわね」
「本気でやる気?」
「当然でしょう!明日の支度がすんだらさっさとやる!」
そういうと可奈は寝室に明を連れ込んだ。

翌日の文京区役所は女子職員を中心に大騒ぎだった。
「種村さん結婚したんですって?「うわー、信じられない」
明は行く先々でうわさになった。
「おはようございます」
「おはよう、種村君、奥さんが寝かせてくれなかったか?」
「何を言っているんですか」
「種村が結婚したんですか?」
「ああ、昨日届け出を出しに来たが、キャリア風の美人だったぞ」
全員が「意外~」と驚いた。

幸いだったのは明は女性についてはほとんど接触したことはなく
明が話せる女性は職場を別とすれば由紀と可奈くらいだった。
それだけに女性の好みなどあまり考えたことがなかったが
ただ一人思いを寄せる女性がいた。由紀でも可奈でもなかったが。

       

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