Neetel Inside 文芸新都
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5.東京防災計画書

間もなく明は鳩山区長に呼ばれた。
「種村、お前何かやったのか?」
「いえ、何か?」
「実はな、お前に呼び出し状が来てる」
「どこからですか?」
「聞いて驚くな、東京都知事、秋山俊作だ!」
「ひえっ、「御前会議」ですか?」
「お前いったい何をやった?」
「いえ、自分には身に覚えがありませんが」

次の週、明は新宿都庁に行った。
「知事、お呼びにより参りました]
すると秋山知事はゆっくりと身を起して
「ようこそ」
「知事、いったいなぜ私を?」
「君は三か月前に懸賞論文を書いたことを覚えているかね?」
「すっかり忘れていました」
「この「東京防災計画」私は驚いたよ、役人にもこんな目のある奴がいるんだなあと」
「はあ」
「いわく、東京で防災の弱点が4か所ある、
4か所とはすなわち、渋谷、目黒、高輪、本郷の4か所、
この4か所に重点的に防災対策を施すべきであり、もしこの4か所のうちの
2か所以上で災害が発生した場合、東京は壊滅的な被害を受ける。
こんなことに気づかなかった私が恥ずかしい。
龍は決してその姿を隠すことができないというが」
「そういうもんでしょうか?」
「そこでだ、ぜひ君に私のブレーンをやってもらいたいんだが、どうかな?」
「お断りいたします」
「転勤はだめか?」
「いえ、今抱えている大きな案件がありまして」
明は秋山知事に自分の抱えている「幸せの輪」について話した。すると知事は言った。
「そうか、あの事件は実は都庁でも内偵捜査をしているんだ。
調べてみたら清瀬市長や22人の市議会議員の全員に裏金が渡っているほか
芸能界にまで手が回っているとか」
「えらい案件引き受けたもんですな」
「すでに都庁でも極秘プロジェクトチームが組まれているが、どうだろう
そこに入る気はないか?」
「やらせていただきます」

夕方、真砂町のマンションには普段は一人しかいないはずの家に
二人の女性がいた、由紀と浅野さんである。
由紀は症状が改善した時に月に何回か外泊が許されるが
それは由紀にとっては何よりの楽しみでもあったのだ。
程なく浅野さんが帰ると、由紀は大好物のうどんをねだる。
実はうどんをゆでるのは明の大得意であった。
由紀を待たせていると、そこに可奈が帰ってきた。
「あ、いいにおい~」
「お帰り、可奈さんまた飲んできたね」
「しょうがないでしょ、由紀ちゃんのお通夜だったんだから」
可奈はこう言って二人をからかうのが大好きであった。
「できたよ」
「わ~兄さんのうどん大好き」
明が作るのはもちろんカップめんではない、それどころかうどんは乾麺からゆでて
つゆもかえしから自分で作るこだわりようだ。

「おい由紀。可奈さんと私がくっつくいていいと言ったそうだな」
「うん、ちょっとつらいけど。でもよそから誰かが来るなら
先輩にくっついてもらったほうが、兄さんだけでも幸せになってほしくて」
「由紀!私がだれのために頑張っているのか分かっているのか?
いくら出世してもお前がいなきゃ何の価値もないんだ!」
「明くんって本当にいいお兄さんね、奥さんになってよかった」
「勝手に無理やり話を進めて…」
「じゃあ明くんは他に好きな人がいるの?いるんだったら教えて!
但し由紀ちゃんとあたし以外で答えて!」
「え?そ、それは・・・」
「大丈夫よ、明くんは由紀ちゃんとあたししかいないんだから」
「勝手なことを言うな!」
すると、外からけたたましいサイレンが鳴り響き、消防車が行きかう音が聞こえた。
「何だろう?」
すると講道館のほうに火の手が見えた。
「何事だ?」

       

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