Neetel Inside 文芸新都
表紙

見開き   最大化      

6.本郷大火

あわてて明が窓の外を見ると、目の前に見える文京シビックセンターや
講道館などが火の海に包まれていた。
「可奈!ありったけのシーツを風呂場で水につけろ!」
明はたっぷり水を含んだシーツを窓際に張ると
「よし、これで時間が稼げる」
「兄さん、怖い」
「安心しろ、私がいる限り大丈夫だ」
その時陽二がやってきた。
「おい!種村!無事か、逃げるぞ!」
「兄さんは窓際にいます」
「あんたたちもすぐ逃げな!」
「陽二!ちょっと待ちな!」
「明…」
「だいたい読めてきた。みんな持てるだけの荷物はまとめて
ここから脱出だ。取りあえず預金通帳と印鑑と位牌に下着、それとペットボトルに水をくんどきな!」
「明、お前どういうつもりだ?火が迫っているんだぞ!」
「陽二、私が気象予報士の資格を持っていることを忘れてないだろ?」
資格の総合商社と言われた明は、役に立つかは別として様々な資格と知識を持っていた。
「そうか・・・お前、風の動きを読んでたな」
「風は本郷三丁目から真砂坂を経て本郷へ吹いている、従って谷底の本郷交差点が被害がひどくなるが
真砂坂を越えたら火は当分来ない」
「さすがだ・・・」
「というわけで、支度ができたら戸締りしてみんな行くぞ!」
「由紀ちゃんは?」
「取りあえず濡れたシーツを用意しろ!戸締りがすんだら私が担ぐ」
そうして4人は戸締りを済ませて外に出た。そしてみんなが濡れたシーツをかぶっていた。
「兄さん」
「由紀、私がいいというまで目をあけるんじゃないぞ!」
一瞬風が弱まったすきを見て。
「みんな!今だ!一気に湯島天神まで突っ走るぞ!」
距離が短いので本郷三丁目までたどりつけば助かると明は読んだのだ。

10分ほどで本郷三丁目を抜けて、さらに5分で湯島天神に着くと
もはや火の色も見えなくなっていた。
「明、これからどうする気だ?」
「町屋に叔母の家があるからそこへ身を寄せようかと」
するとその叔母はなぜか湯島天神の門前の向かい側でおにぎりと甘酒がおかれたテーブルの前にいた。
「満月叔母上・・・」
「よかった~心配したのよ~」

彼女の名は種村満月、荒川区町屋に住んでいる明と由紀の叔母であり、売れっ子漫画家でもあった。
叔母といっても明とは6つだけ年上なので、小さいころからお姉さんの代わりでもあった。
そのせいかはたまた売れっ子漫画家の宿命か、満月はいまだに結婚もしないでいた。
実は明がひそかに思いを寄せているのも満月であった。叔母とは言えやさしく頭もよく
スタイルも抜群で、アラサーでバスト95センチFカップのスタイルも見事で
化粧をすれば、漫画家やめてタレントでも通用しそうな叔母であった。
事実、満月は様々な男性とのうわさや話があるのだが、みんな断っている。

満月が湯島天神にいたのは、明と由紀を心配して、つてのあった地元の婦人会の炊き出し名義で
明たちの消息を探すつもりだった。
満月も気の利いた料理はできる。明たちは炊き出しのおにぎりと甘酒を頂いた。
するとある事に気付いた。おにぎりを食べた瞬間、なぜか体の中から疲れがスーッと抜けていくのだ。
「これはいったい?」
「これはね、広小路のお寿司屋さんに頼んですし飯を分けてもらって握ったの」
なんと満月はすし飯を使って、お新香やたくあんを具にしておにぎりを握っていた。
さらに甘酒とくればこれは疲れが取れないわけはない。
「それにしても誰が一体こんなことを・・・」

一方、東京ドームシティミーツポート前には都築課長がいた。
そこへ一人の青年がぶつかってきた。
「なんだ!貴様!」
しかし青年はなおも逃げようとしたため、都築課長は胸ぐらをつかんだ。
「おい!人にぶつかってごめんなさいの一言もないのか?」
すると服のわきからペットボトル2本とライターが5,6個出てきた。
「貴様これはいったいなんだ!白状しろ!」

       

表紙
Tweet

Neetsha