Neetel Inside 文芸新都
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8.新宿の陽明学

本郷大火により多くの人々が家を失って道にあふれていた、
明たちは叔母である満月のもとに身を寄せることができたが
大半の文京区の住民は家を失い、新宿区へ流れてきていた。

新宿御苑のはずれにある高梨邸では、若者たちが集っていた。
「先生、町の人の苦しみ、何とか救う方法はありませんか?」
「新宿区役所に請願書を提出してある」
高梨先生は新宿区長にこういった災害のために積極的に財政出動し
民衆を助けることこそ政治だと説いたのだ。
しかし新宿区長はそれを認めず、文京区のことは文京区でなんとかしろの一点張りだった。

高梨先生は若者に直接歴史を解かず、「陽明学」を説いていた。
その教えは「知行合一」学問は行動に移して初めて完成するというものだった。
すなわち「世の中のために良いと思うことは、実行して世のために役立てる」のが
高梨先生の陽明学であった。

高梨先生は主だった弟子たちを集めてこう言った。
「諸君!私に力を貸してくれないか!
幸せの輪なる連中をこのままにしておいたら日本の出版界には
必ず良い影響は与えない」
「先生、それじゃやつらと戦うと」
「我々だけでできますかね?」
「私も成功するとは思っていない、しかし誰かがやらねばならぬことだ。
同人世界の不祥事は同人世界で解決する。
日ごろ私が教える陽明学、ひいては歴史学というのは・・・。
過去の失敗を繰り返させないために歴史を伝えていくのが歴史学者の責務である。
同人の名のもとに多額の利益をあげてしかもそれが同人世界では当然と思わせるような
連中は必ず最後に天誅が下る。みんなやってくれるか?」
「あいや!しばらく!」
そこに明がやってきた。
「種村君か…。本来は君がこういうことに真っ先に取り組まねばならないんだぞ!」
「高梨先生、これはもはや同人世界だけの話ではありませんよ」
「どういうことだ?」
「これは「幸せの輪」だけで、同人世界だけで終わることではありません。
私が調べたところ、「幸せの輪」にはオーストラリアやニューヨークから資金が渡っていることが判明しました」
「何だと?」
「彼らはニューヨークに本部を持つ雑誌社「RD」から資金提供を受けています。
このままでは「幸せの輪」をつぶしたところで、「RD」が攻撃してくれば
我ら一門もろとも吹き飛びます」
「それは一大事だ」
「とにかく、調査と切り崩し戦略を綿密に行うべきと考えます」
「世界相手に戦争をやるとなると大変じゃ、同人世界だけならいいが
RD相手では「無関係」と言われればそれまで。また新たな被害者が出るだけじゃ。
その場合の常とう手段はやはり権謀術数じゃな・・・」
そして高梨先生が立ち上がって静かに告げた。
「わかった、この件はしばらく種村に任せる」
「ははっ」

       

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