Neetel Inside ニートノベル
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仮面ライダープロトフォー
プロローグ私の視点

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「おい凉樹」

私はこの名前が嫌いだ。
なんたってまず女っぽくないし。名乗ると「名字かと思った」と言われるのが嫌いだった
考えてもみてほしい、出会う人間すべてに「名字みたいな名前」と言われてたらうんざりすると思う。
その上お決まりのパターンは「どんな字を書くんですか?」と聞かれる。勘弁してほしい。
私が発言した言葉をリストアップしてランキングをつけたら「どうも」と「いいえ」の次に
「涼しいの『すず』に樹木の『き』です」だと思う。

そんな事を考えて一人でイライラしていたら
「なぁ?聞いてる?」

ふと目をやると間の抜けた顔がそこにあった。
こいつの名前は「鉄男」私が「テツ」と呼ぶ男だ。個人的にはなかなかいい名前だと思う。とてもうらやましい。
まず男らしい。鉄と言えば強固で強く加工すれば何にでも形を変える事が出来るバイタリティと可能性を秘めた金属だ。そんな男らしい意味合いの文字の次に「男」だ。
これはもう文句のつけ所がないいい名前だ…と個人的に思う。

「あの犯人ってこの前のボヤと関係あるんじゃないか?」

定食屋のテレビを見ながらテツは言った。
正直今朝日課のジョギングに行く前にニュースで犯人が捕まった事を知っていたし個人的にも犯人はそいつだと思う。
しかし私は放火事件発生当時のニュースを見て「不気味な姿をした怪人が校舎に火を放つのを見た」という証言に正直ワクワクした。
もしかしたら怪人が大学に火をつけにきたら…きてくれたら…仮面ライダーが見れるかもしれない!
あんなニュースのブレブレの映像ではなくて生の仮面ライダーが見れるかもしれない。

そんな私の期待はスローモーションで割れるワイングラスのように砕け散った。

この期待を誰に…誰にとってもらおうか…。

とりあえずわたしは目の前の男に八つ当たりをする事に決めた

「どうでもいいよ」

なるべくさりげなく冷たく言い放つ。
テツは残念そうにシュンとなってハンバーグ定食の付け合わせのニンジンを箸でつついている。
気はすっとしたが別の意味でイライラしてしまう。
こいつはこの年でニンジンが食えない。男だったらニンジンぐらい食えと言ってやりたくなる。

…というか5分前に言った。

だからコイツはいつまでたっても食えないニンジンを箸で突いているハメになった。
男らしくないのだ。『食えんもんは食えんのじゃ』とでも言ってくれたら男らしいのだが…
そもそもだ。こいつはなぜ女である私をこんな大学近くの定食屋に連れてくるのだ。
男だったらもうちょっとエスコートしてくれてもいいだろう。
二、三分歩いた先に洒落たイタリアンの店があるにも関わらず…男としての…

そんな事を考えていたらテレビから聞き覚えのある単語が流れてきた

「仮面ライダー」

私は思わずテレビに釘付けになった。

「愛知県○○市の工事現場に独自調査で追いつめ打破したものと思われます。警察関係者からの発表では仮面ライダーによって打破された怪人は完全に消滅しており愛知県全域に発令されていた怪人警報は解除されました。なお……」

「好きなんだな」
テツが笑いながら言う。
相変わらず間の抜けた顔だ。
だがこの間の抜けた顔に時々救われる。私が大学1年の時初めて自己紹介したのがテツだった。
当時の私は入学という新しい人生の節目に立たされて正直うんざりしていたのだ。
ああ今日からうんざりするほど何回も何回も「涼しいの『すず』に樹木の『き』です」と言わなければならない。
そんな絶望の中少しあきらめ半分「すずきです…」と言ったところ
テツはあの間の抜けた表情で「名字は?」と聞き返してきたのである。
「なんで名字じゃないってわかったの?」と聞くとテツは少し笑って「解るよ」と言った。

ただ勘がいいだけなのだろうか。
心をくすぐられたような気がした。

それがきっかけで3年間の腐れ縁だ。

しかし私はこんな日常が私はわりと好きだった。


「行く」
とだけ言い
私が席を立つとまるで子犬みたいについてくる。
ニンジンを食べずに済んだのがそんなに嬉しいのか…。

定食屋を出ると眩しさに目がくらんだ。
暗いところから明るいところに出ると何だか少し大きくなったような気がする。

私は背伸びした
なんだか空でも飛べそうな気分だ

そういえば空を飛べる仮面ライダーもいるとニュースでやっていた。

「もしもさ、テツがある日とんでもない力を手に入れたらその力を何に使う?」

何気なく聞いてみた。
テツはうーんと唸って

「わからないな、もしも僕がうっかりそんな力を手に入れてしまったら さっきの怪人みたいに悪い事をしないって自信が無いよ。」

と言った
正直さっきまで空を飛びたいと思っていた私が恥ずかしかった。
その上「凉樹を守るよ」なんて台詞を期待していた私が馬鹿みたいじゃないか。

「私だったら守ってやるのに!」
思わず口に出してしまった。

テツはきょとんとして「何を?」と聞いてきた。

まずい!まずい!まずいまずいまずい!
適当に言えばいいじゃないか心は誰にも見られないし証拠なんて残らないんだから。
私はこの手のごまかしが非常に上手いのだ。

「世界の平和…」

口に出して気付いた。これはこれで恥ずかしい。
テツが爆笑している。
もいいコイツにノートも貸さないしニンジンも一生食べれないままベータカロチン不足で死ねばいい。
おそらく真っ赤であろう顔を見られないように私は少し早歩きで先に行った。

「おーい」
テツの声が聞こえる


「凉樹だったらさ」
テツの口から出る私の名前が好きだ。
こいつのおかげで私は自分の名前が少し好きになった。

「なんだよ」と少しぶっきらぼうに言うと。

あの時 解るよ と言ってくれた時と同じ優しい顔でテツは

「守れるさ」と言った。





こんな何でも無い日常を…私は…守りたかった。





       

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