ヒウロ達が邁進していた。魔王の城。魔族の本拠地。しかし、心は落ち着いている。気負っていない。世界の命運を背負っていようとも、その目的はただ一つなのだ。魔王を、魔族を倒す。ただこの一つの目的のため、ヒウロ達は城内を突き進んでいた。
「……皆さん、足を止めてください。あの扉、何か変です」
一本道の通路。先頭を歩くオリアーが、前方の扉から何か違和感を感じ取った。その場で注意深く探る。どうやら、殺気や邪気とは違うようだ。
「何か魔法が掛けられているな」
メイジが扉から魔力を感じ取った。だが、何の魔法かまでは分からない。
正直な所、ここでヒウロ達は無駄なリスクを背負いたくは無かった。敵の本拠地なのだ。多少、遠回りであろうとも、リスクを背負わずに済むルートがあるならば、そのルートを選ぶ。それがヒウロの判断であり、パーティの意志だった。
しかし、この目の前の扉は奥へと進む唯一のルートだった。他に道は無い。
「行こう。迷っている暇はない」
ヒウロが言った。四人が頷く。そして、扉を開ける。扉の向こうは闇一色だ。その瞬間だった。扉の先の闇が、ヒウロ達を吸い込もうとし始めた。
「なんだ、これは……!」
メイジが呻く。バシルーラに近い魔力だ。耐え切れない。
「吸い込まれる!」
ヒウロが声をあげると同時に、五人は闇の中に吸い込まれてしまった。
闇から放り出される。ヒウロだ。身体を起こした。顔を上げる。部屋。大きな部屋だ。辺りを見回す。仲間が居ない。メイジもオリアーも、セシルもエミリアもだ。
「久しぶりだな、勇者アレクの子孫」
声。聞いた事がある声だ。ヒウロはそう思った。視線を向ける。
「……お前は」
ヒウロが稲妻の剣の束に手を掛けた。声の主。それは、四柱神のリーダー格、サベルだった。青い頭髪。背に長剣。かつて、ヒウロは一度だけ顔を合わせた事がある。スレルミア河川。あの時は恐怖で全身が竦んだ。戦わずして、その実力差を肌で感じた。だが、今は。
「みんなをどこにやった?」
「……他の四柱神の元だ」
「つまり、あの扉の魔法はお前が掛けたものだと……そういう事か」
メイジが睨みつける。その視線の先には、四柱神の一人である、グラファが立っていた。老人。背丈は子供ぐらいしかないが、その小さな身体からは想像も出来ない程の魔力を備えているのが分かる。
「ホッホッホ。伊達に歳は取ってないからの」
「その風貌通り、味な真似をする奴だ」
「……魔人レオンに似て、口の利き方が生意気過ぎるわ。ちと、仕置きをしてやらねばならんようじゃの」
筋肉ダルマ。四柱神の一人であるクレイモアが、大剣をビュンビュンと振り回す。風鳴り音が竜巻の如く唸っていた。
「久しぶりだな。まさかてめぇが、剣聖シリウスの後継者だとは」
「四柱神……。こうやって僕達を分散させて、個々で討ち取る、というわけですか」
オリアーが神器、神剣・フェニックスソードを抜き、構えた。白銀の刀身。
「自惚れるな、クズが。てめぇら如きわざわざ分散させずとも、俺様一人で全員を肉塊にしてやるわ」
オリアーがキッと睨みつける。
「じゃぁ、なんで分散させたと思う?」
白い肌。赤い爪。赤い髪。顔の半分が髪の毛で隠れている。四柱神の一人、唯一の女魔族であるディーレがクスクスと笑った。
「……そんな事、知るわけないわ」
セシルが魔法剣を作り出す。
「バカね。そんな事も分からないの?」
ディーレが前髪をゆっくりと掻き上げた。それをセシルが睨みつける。
「楽しむために決まってるじゃなぁい。全員で戦っちゃったら、獲物の取り合いになるでしょ? だから、仲良く獲物を分けたのよ。フフ。そして、私には二匹も獲物が転がり込んできた。……最高だわ。身体がゾクゾクしちゃう」
「……エミリア。後方支援、お願いね」
エミリアが強く頷く。セシルが前に出て、魔法剣を構えた。
ヒウロ達と四柱神の戦いが、今始まる。